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深窓の佳人(しんそうのかじん)

培養環境

胚を培養する際の一つのポイントとして、如何に胚へのストレスを減らしダメージを最小限に抑えられるような培養環境を維持できるか?という点が重要と言われています。胚へのストレスとなる外的因子としては、温度、pH、炭酸ガス濃度、酸素濃度、振動、紫外線、ホコリ、空気中の有害物質、浸透圧変化・・・etcなど数えればキリがありません。卵は採卵直後から本来あるべき母体から取り出されて非生理的環境下に置かれます。この間、常時培養液中に浸された状態を維持することでストレスの原因となる様々な外的因子から保護されます。しかし母体の卵管や子宮の環境を如何に忠実に再現しようと努力しても100%母体と同様の環境を再現することは出来ません。(これが言わば体外培養の限界とも言えます)。それでも我々は極力卵が本来あるべき母体内になるべく近い環境に置かれることに心血を注いでいます。母体内の環境を忠実に再現するためには、培養液を卵の発育に適した状態に調整する(どの培養液もそうですが、使用前には必ず平衡化と行って温度やCO2分圧等を推奨される状態に調整します)、また培養液はインキュベーターと呼ばれる機械に入れた状態で使用しますが、このインキュベータは温度、湿度、炭酸ガス濃度等を体内環境に近づくように調整して使用します。このインキュベーターは扉を完全に閉めて閉鎖した状態でそこに静置した培養液が一定の条件になるよう調整されていますが、一度扉を開けて外界の空気が流入すると庫内の温度、湿度、炭酸ガス濃度などが変化し、結果そこに静置した培養液の状態は変化してしまいます。また、従来の体外受精では卵を観察する目的でディッシュと呼ばれるプラスチック製の容器に培養液を満たし、卵を入れた状態で容器ごと外に取り出して顕微鏡で観察する必要がありました。この観察の頻度が多く、観察に時間を要する程、空気中に晒された培養液の温度、炭酸ガス分圧、pH等に変化をきたし、卵にとってのストレスとなってきました。また外界に晒されることで紫外線や空気中のホコリなど卵にとっての有害なものの影響を受ける可能性も高くなります。この卵の観察のポイントでデッシュを庫外に出す時間を如何に短くできるか?(如何に素早く正確に卵の観察、評価ができるか?)が重要であり、地味な作業ではありますが、胚培養士の腕が試される瞬間でもありました。

最近、卵の観察をインキュベーターから取り出さずに、庫内に取り付けたカメラによって自動的に行えるタイムラプスシステムと呼ばれるものが普及してきました。(代表的なものがVitrolife社のEmbryo Scopeです)。これまで観察の度に胚培養士がディッシュごと庫外へ取り出していたものが、媒精(卵と精子を受精させる作業)から胚移植または凍結まで一度も庫外に出さずに行えるようになりました。(こちらの写真は当院のEmbryo scopeになります。2016年から稼働しており大活躍中です)

深窓の佳人、箱入り娘

深窓の佳人という言葉があります。深窓の佳人(しんそうのかじん)とは、俗世間に触れさせず大切に育てられた人(特に女性)を指す表現です。”深窓”とは奥深いところという意味で、隔離されて俗世間に染まっていない様子を指します。類似の表現に”箱入り娘”などの言葉があります。卵に関しては採卵して母体から取り出し、再び母体(子宮)に返すまではなるべく俗世間(卵にとってストレスとなる温度変化、湿度変化、紫外線、空気中のホコリなどの外界の刺激)から隔離した方が無難です。(箱入り娘というと世間知らずと言ったややネガティブなイメージで使われる場合もありますが、卵については箱入りである方がベストです)。タイムラプスインキュベーターは媒精から胚移植または凍結までの間、一切外界と接触することなく培養、観察が可能なシステムです。患者様の箱入り娘(息子)様を大切にお預かりいたします。(深窓=外界と隔離できるタイムラプスインキュベーター、箱、そこで育てられた卵=深窓の佳人、箱入り娘という考え方が出来ると思います)

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