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人工授精(AIH) その可能性と限界について

人工授精とは?

精子を子宮内へ直接注入し、卵子と精子が出会う確率を高める治療です。原精液を洗浄濃縮処理して、運動良好な精子を排卵日付近で子宮腔内へ注入します。

  • 一般的な配偶者間の人工授精をAIHと言います。非配偶者間の精子を用いた人工授精はAIDといいます。ここでは人工授精=AIHとして話を進めます。

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人工授精(AIH)の可能性そして限界(個人的には排卵がしっかりできている方であれば4回ぐらいまで)

一般的にAIH1回あたりの妊娠率10%前後(高くても20%以下)とされています(女性の年齢によって大きく変わります)。一般の方が考えているほど実は妊娠率はさほど高くはないです。仮に1回あたりの妊娠率を10%と考えると、10回ぐらいやるうちに1回ぐらい妊娠するという確率になります。これは、毎月必ず1回、排卵に合わせてAIHを行うとしたら1年以内で妊娠する確率です。AIHには適応になる方と適応とは言えない方がいます。(これはどの治療法でもそうですが、適応、非適応を見極めることは極めて重要です) AIHの適応は軽度の男性因子(WHOが定める正常精液所見の基準(2010年改訂)によれば、精子濃度は精液1mL中に1500万個以上、精子運動率40%以上、数回受けた精液検査で常に基準値を下回る場合には男性不妊と診断されます。精子濃度が500万個/mL以下の場合には、一般不妊治療での妊娠は難しいと考えられます。AIHで妊娠するためには最低でもWHO基準程度の精液所見は必要です)、性交障害、精子進入不良(ヒューナー検査不良例で高度男性因子ではないもの)などです。逆にAIHの非適応例は、両側卵管因子、WHO基準を下回る程の高度男性因子、ヒューナーテスト良好例(自然の状態で精子の進入が悪くない)、女性が高齢のカップルなどです。一般的には5、6回行っても妊娠しない場合は体外受精の適応と考えた方がよいと思われます。AIHは何回ぐらいまで?という質問をよくいただきますが、当院では何回までというお答えはしておらず、少しでも早く結果を出したいなら体外受精へステップアップをという返事をしています。また、将来的に体外受精まで考えているなら、早めのステップアップを促しています。(夫婦の中でAIHまでと決めているならそれはそれでもいいと思います)。AIHで妊娠する方はだいたい最初の3、4回目ぐらいまでに妊娠しているのが実情です。

どこから先を生殖医療と考えるか?(個人的にはAIH以上)

医療として行う不妊治療(=生殖医療)はAIH以上と考えています。(この点は様々な考え方があると思いますのであくまでも私見です)。個人的にはタイミング指導は医療の範疇には入らないと考えています。(おそらく排卵検査薬を用いて自己流で行う自己タイミング法とほとんど変わらないので)。不妊治療を希望されて来られる初診の患者様に対して、AIHから進めましょう・・・というのは実は結構勇気が要ります。(AIHから・・という話をすると、えっ!?という反応をされます。そういう患者様はおそらくタイミング指導を求めてこられた方だろうと思われます。)。医療を求めてこられる患者様にタイミング指導が果たして適切な医療と言えるのかどうかいつも葛藤しながら診療をしていますが、空気を読みながら治療法の提案をしています。これまで他の施設ですでに検査や治療を受けておられる患者様には逆にAIHや体外受精からの提案が行いやすく、比較的受け入れられやすい印象です。

治療開始年齢が高くなり、のんびりゆっくりできない現実がある(ヒトの妊孕性に対する医療者の常識と患者さんの認識のズレ)

かつて、不妊治療の王道はステップアップ法でした。(今もこれがスタンダードであることには違いないと思います)。子供を欲しいとやってきた夫婦に、ではまずタイミング指導から始めましょう、1年ぐらいやってみてダメなら人工授精へ、さらに半年〜1年ぐらいやってもダメなら体外受精も考えましょう・・・これがかつての一般的な不妊治療の流れだったと思います。しかし、治療を開始する夫婦の年齢が高くなった現在、かつての王道と言われた治療法が通用しなくなっています。(と、私は感じています)37歳ぐらいで結婚、そこから2年ほど子作りに励んだが妊娠しなくて、不妊クリニックの門を叩いたのが39歳、来年は不惑の歳を迎えます・・・最近こういう方が実はかなり多いのです。不妊治療開始年齢が30台後半の場合、そこから先の半年、1年は、一月(=1回の排卵)たりとも無駄にできない貴重な時間です。(と、私は考えています)。この半年〜1年にどのくらいしっかり治療に取り組むかで将来子供を持てるかどうかが決まると考えています。かつて王道と言われたステップアップ法を30台後半(特に不惑の歳が近い方)の方に始めるということは、実は結構重い決断です。この判断が誤っていれば、その夫婦が将来子供を持てる可能性を閉ざしてしまうかもしれないからです。人の妊孕性は20代までがピークで、30代に入ると徐々に衰えていき、35歳を過ぎると急激に妊娠しにくくなると言われています。(が、危機感をもってこの現実を理解している人は意外に少ないです) 30代後半からの不妊治療は、生物学的に本来妊娠しにくい年代の人を生物学的限界に抗って妊娠するように向かわせることです。そのためには十分な医療の介入というものが必要になると思います。これまでに自己流でもある一定期間以上の自己タイミング療法をやってこられた方に対しては、最低でも人工授精以上の治療(できるなら体外受精に絞っての治療)が妥当ではないかと考えます。「40才までは自分たちなりに努力をして、40才になっても妊娠しなかったら体外受精を考える」という話をよく聞きますが、実は危ない考え方です。もちろん40代になってから体外受精を始めてスムーズに妊娠される方もいますが、途中で苦戦を強いられる方の方が圧倒的に多く、最終的に諦めることになる方もいます。こういった方々の中には、あと2年早く治療を始めていれば、どうにかなったのに・・・と推測される症例がかなりあります。

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