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選択的単一胚移植(eSET)について

何故1個胚移植なのか?

現在、日本の体外受精はeSET(elective single embryo transfer=選択的単一胚移植)が主流です。これは2008年の日本産科婦人科学会の会告が影響しています。その結果として体外受精由来の多胎妊娠数が大幅に減少、周産期合併症の減少に貢献しています。

ところで、2個胚移植と1個胚移植について実際のところの妊娠率はどうなのでしょうか?

2004年に SET(single embryo transfer=1個胚移植) と DET (double embryo transfer=2個胚移植)の総妊娠率を比較した大規模な RCT(ランダム化試験) が報告されています(N Engl J Med 2004 ; 351 : 2392―2402)。この RCT は36歳以下で初回、もしくは2回目の ARTで、少なくとも2個以上の良好胚が獲得できた症例で新鮮胚移植を行った症例を対象に、SET307例とDET 327例をランダムに割り付け比較検討しています。その結果、1回の胚移植あたりでみるとSETで27.6%、DETで42.9%が生産分娩し、DETの生産分娩率が有意に高いものでしたが、SET の場合、翌周期以降の凍結融解胚移植周期で生産分娩する症例があるため、それを合計した累積の結果では、SETの生産分娩率は38.8%となり、SETとDETの生産分娩率には有意差がなくなったと報告しています。(簡単に言うと、1回の採卵で取れた卵について、1回の移植あたりで見るとDETの方がSETより当然2個戻しているので妊娠率は高くなるが、複数個の卵子が取れた場合は当然凍結保存を行うので、その後の凍結胚移植周期まで含めた累積の妊娠ではSETもDETも結果として赤ちゃんが生まれたかどうかという点まで見ると差はなかったというような意味になります。)

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa041032

不妊治療の最終ゴールは妊娠することではなく健児を得ること

DETの最大の問題点は多胎妊娠(双子以上の妊娠)です。一般の方は双子について、双子を産みたい、双子が欲しいぐらいに考えるかもしれませんが、我々医療者にとっては単胎と双胎では母児にかかるリスクでは雲泥の差があるという認識です。特に産科の現場では双胎以上の管理は非常に気を使います。自然発生の双胎であればそれは受け入れざるを得ませんが、人為的に作られたということであればなぜそれを避けられなかったのかとなります。(私自身も不妊治療後の多胎妊娠で非常に苦い経験があります・・・)

医療費の立場でSETとDETを比較した伊東らの論文では、不妊治療にかかった医療コストではSETもDETもあまり差はなかったが、分娩(1カ月健診)まで含めた医療費でみるとSETの方がDETより低額になっており、医療費の上でもSETが有利であると報告しています。 また、フィンランドからもSETとDET の医療費を比較した論文が出され、伊東らの結果と同様な結果を報告しており、医療費上においてもSETの優位性が明らかとなっています。(双子を妊娠するとその後の産科的管理、新生児管理、妊娠中〜産後の母児に関わるリスクに対する費用など、医療経済的にも非常にコストがかかることが示されているわけです。)

(伊東宗毅,林 直樹,松永茂剛,高井 泰,斉藤正博,関 博之 当科における選択的1胚移植(eSET)と2胚移植(DET)の成績および 医療コストの比較検討 産婦人科の実際 2008;57:2043―2047)

自施設の体外受精技術、培養技術、治療技術に自信のある施設では、SETでも高い妊娠率を維持することができ、DETと比べて何ら遜色はありません。(これこそがまさに選択的単一胚移植eSETです)不妊治療の最終ゴールは妊娠することではなく健児を得ることです。多胎妊娠に伴う母児へのリスクはもちろん、多胎による社会的、医療経済的影響を十分考慮した上で治療法を選択することが生殖医療へ携わる全ての医療従事者へ課せられた責任であると言えます(日本産科婦人科学会がこのように明言しています)。このような理由から当院でも現在は全てのケースでeSET(選択的単一胚移植)を行っています。(以前に症例を選んでの2個胚移植を行っていた時期もありましたが、現在は全て単一胚移植とさせていただいております。ご理解の程よろしくお願いいたします。)

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