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移植胚の選択に関する話題(胚盤胞予測因子との関係)

なるべく早く妊娠するためには?

不妊治療を専門とする我々が日頃意識するのは、如何に最短の時間で患者様を妊娠に導くか?ということです。これはどこの施設でもそうですが、1回の採卵、1回の胚移植で患者様が卒業出来れば、時間的にも、費用的にも、身体的にも患者様の負担は極力最小限で済むと言えると思います。そこで我々が意識しているのは、出来るだけ初回の採卵で複数個の良好胚を確保し、その中から妊娠の可能性の高い胚を選択し、最適な状況で子宮に戻すということです。今回のテーマは、複数の移植可能胚がある場合に何を基準に移植胚の選択を行うべきか?という点について考えてみたいと思います。

妊娠できる卵を選ぶための基準(胚盤胞予測因子)

妊娠が成立するためには、受精卵は必ず、分割期胚(2細胞→4細胞→8細胞)という状態から桑実胚(molura)という状態を経て、胚盤胞という状態にならなければなりません。受精卵が子宮に着床するのは必ず胚盤胞という状態まで育った場合です。ということは、ポイントの一つとして、胚盤胞になれる卵を選んで移植すれば妊娠の可能性が上がるという考え方ができます。もちろん、体外で胚盤胞まで培養して、確実に胚盤胞まで育ったものだけを移植するという胚盤胞移植という方法もありますが、実は受精卵が体外で胚盤胞まで育つというのは非常に大変なことで、卵にとっては非常に過酷な環境下でストレスを受けることになってしまいます。若年者の卵はストレスに強く、胚盤胞まで育ちやすいものもありますが、年齢の高い方の卵はなかなか胚盤胞まで育ってくれません。胚盤胞移植にこだわりすぎると受精卵が胚盤胞まで育たずに移植キャンセルということも多くなってしまいます。体外で胚盤胞まで育たなかった卵でも、体内の環境の良い条件下では胚盤胞まで育っていたという可能性もありえない話ではなく、これまでに胚盤胞移植に何回チャレンジしても上手くいかない方の場合、分割期胚移植に切り替えることで上手く行ったというケースもあります。ところで、分割期胚を戻す際に、例えば幾つかの分割期胚があって、その中からどれを戻せばより胚盤胞を経て着床にたどり着く可能性が高いか?ということがあらかじめ予測できれば、何も胚盤胞移植(体外培養で胚盤胞まで育てること)にこだわる必要はないわけです。胚盤胞形成の予測因子として、以下の幾つかの要素が挙げられています。

1、第1卵割(第1卵割とは、受精した卵が最初に行う細胞分裂のことです)。第1卵割の際に、2細胞を経て3細胞、4細胞となるパターンと、2細胞を経ずにいきなり3細胞になるパターン(これをdirect cleavage(ダイレクト分割)と言います)では、ダイレクト分割を起こした卵では胚盤胞形成率が低いと言われています。つまり第1卵割で必ず2細胞を経ることが胚盤胞形成の重要なポイントであると考えられています。(ダイレクト分割が胚盤胞形成しにくい理由として、染色体の不均衡分離が生じるためと言われています)

2、前核消失時間、第1卵割終了時間、8細胞形成時間  前核は精子由来の雄性前核と卵子由来の雌性前核のことです。正常受精卵ではこの前核が2個形成され、やがて融合して消失しますが、前核消失時間が媒精後23時間前後の場合とそれ以降の場合では以後の胚盤胞形成率に差が生じるといわれており、前核消失が遅延した群では胚盤胞形成率が低いと言われています。同じように、第1卵割の終了時間がおよそ28時間前後、8細胞形成時間が57時間前後と、受精卵発育の各ポイントにおいて、その卵が将来胚盤胞までなれるかどうかを運命付けるターニングポイントとなるべき時間が存在します。

このように、タイムラプスシステムによって、いくつかの胚盤胞予測因子の中からその卵が胚盤胞まで育つ可能性があるのかどうかを見極めることで、卵が外界にさらされてストレスを受ける可能性の低い分割期胚の状態の卵を子宮に戻すということも戦略としては非常に重要になってきます。(特にこれまでになかなか胚盤胞まで育たない方では無理に胚盤胞移植にこだわらず、胚盤胞予測因子に基づいて選択した卵を分割期で戻すということが有効かもしれません)

胚盤胞予測因子≠妊娠予測因子

良好胚盤胞を複数回移植してもなかなか妊娠に至らない方がおられます。インプランテーションウィンドウのずれなど、受精卵以外の問題を除外すれば、当たり前ですがやはりその卵自体の問題ということになると思います(つまりその受精卵が赤ちゃんになれるのかどうなのかというところで決まってしまいます。多くのケースでは受精卵の染色体が結果を左右します)。この事実からも分かるように、胚盤胞を移植すれば仮にインプランテーションウィンドウがずれていないと仮定しても、必ず妊娠できるというわけではないのです。これはつまり、胚盤胞=妊娠の保証にはならない、つまり胚盤胞予測因子は妊娠予測因子にはならないということになります。タイムラプスが発達して、初期分割期胚の観察を十分に行うことで、その卵が将来胚盤胞になるかどうかまではある程度予測できても、その卵が妊娠できるかどうかは分からないということです。受精卵が妊娠できるかどうかを左右するのはその卵の染色体が正常かどうかに左右されますが、卵の形態(胚盤胞の形やグレード)からは染色体の正常、異常は予測できないのです。ここから先はやはりPGS(着床前スクリーニング検査)の普及が待たれるところです。

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