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right or left ?

排卵の左右における妊娠率の違いについて

ヒトの卵巣は左右に1個ずつあり、通常毎月ランダムに排卵されます。もちろん自分の意思で右か左かを選ぶことは出来ませんが、左右どちらの排卵が多いのか?また左右どちらの排卵周期が妊娠により有利か?について調べた論文があったので紹介します。2000年のHuman Reproductionに掲載された非常に面白い内容です。

Right-sided ovulation favours pregnancy more than left-sided ovulation

結論としては、ヒトの場合は右からの排卵の頻度が多く、また右排卵の方が左排卵より妊娠率が高い傾向にある(妊娠に有利?)としています。また今回の調査では不妊症の女性と不妊症ではない女性に分けても調べられており、どちらの群でも同様に右排卵の頻度が多いことが分かりました。

不妊症の女性における排卵の左右差

全周期1033周期中578周期(55.9%)が右排卵、うち妊娠周期を除いた非妊娠周期920周期中505周期(54.9%)が右排卵、卵胞期の長さ(排卵までに要する日数)は右が15.5 ± 2.9 日、左が15.3 ± 2.9で左右の差は見られなかった。

自然周期体外受精のアウトカム

306周期中178周期(58.2%)が右卵胞周期であった。回収卵子の受精率、分割率について左右の有意差はなかった。着床率では、右排卵周期15/75(20%)、左排卵周期9/70(13%)で有意差はないが右卵胞周期で高い傾向にあった。

人工授精周期(IUI)、体外受精周期(IVF)、人工授精+体外受精周期でのアウトカム

人工授精、体外受精での妊娠周期の右排卵由来率は(64.6%, 73/113)であり、非妊娠周期の右排卵由来率(54.9%, 505/920)より明らかに高い数値であった。(つまり妊娠成立した周期ではより右からの排卵のケースが多かった)

 

不妊症女性、非不妊症女性の妊娠周期、非妊娠周期における左右の排卵状況

不妊症女性の妊娠周期で右排卵率が64.6%、非妊娠周期の右排卵率は54.9%で妊娠、非妊娠のいずれの場合でも右排卵率が高い。一方、非不妊症女性でも妊娠周期の右排卵率63.4%、非妊娠周期の右排卵率54.7%で妊娠、非妊娠いずれの場合も右排卵率が高い。

  Pregnant cycles   Non-pregnant cycles   Odds ratio (95% CI  )  P value
Values in parentheses are percentages.
Infertile
R   73 (64.6)   505 (54.9)   1.50 (1.00–2.25)   0.0497
L   40 (35.4)   415 (45.1)
Fertile
R   361 (63.4)   578 (54.7)   1.44 (1.28–1.62)   0.0006
L   208 (36.6)   479 (45.3)
Infertile + Fertile
R   434 (63.6)   1083 (54.8)   1.44 (1.32–1.57)  <0.0001
L   248 (36.4)   894 (45.2)

黄体中期の血中ホルモンの状況

右排卵周期において、血中エストラジオール、テストステロン値が有意に高く、プロゲステロン、アンドロステンジオン値に有意差はなかった。排卵の左右の違いによる血中ステロイドホルモン値の差が排卵の左右差による妊娠率の違いに影響している可能性は考えられるとしている。

Oestradiol pmol/l Progesterone nmol/l Testosterone pmol/l Androstenedione nmol/l
a,bValues with the same superscript were significantly different (P = 0.03, P = 0.04 respectively).
Values are mean ± SD.
R
624 ± 235a 72.8 ± 26.7 951 ± 527b 7.25 ± 2.29
(n = 144) (n = 144) (n = 123) (n = 123)
L
558 ± 184a 72.8 ± 28.3 798 ± 364b 7.39 ± 2.43
(n = 94) (n = 92) (n = 82) (

 

右排卵が多い理由

解剖学的な理由ではないかということですが、詳細は不明としています。ヒトの体(特に内臓)は左右対称ではありません。(アシンメトリー)。ヒト以外の動物でも排卵や卵巣の活動性に左右差が見られる種もいるとしています。

不妊症治療への応用的な考え方

今回の論文から、ヒトでは右の排卵頻度が有意に高いこと、右排卵周期の方が妊娠率が高い傾向にある(有意差が出るところまでは行っていない)ことが分かりました。患者様にも今回は右ですか?左ですか?と時々聞かれますが、右と左の妊娠率が違う可能性があることを考えると的を得た質問だと思います。子宮内膜症(チョコレート嚢腫)による癒着やクラミジア感染などによる卵巣卵管周囲癒着などがあると排卵しにくくなる可能性があります。今回の論文を元に考えると、右の卵巣に何らかのダメージを受けている方(右卵巣が機能しにくい方)は左卵巣の場合よりも妊孕性がより低下する??可能性も考えられます(右が機能低下に陥った際に、左が代償性に機能するかどうかなど、この論文では触れられていない部分もあるので、あくまでも推測ですが・・・)。以下私見ですが、いずれにしても、子宮内膜症(チョコレート嚢腫)や卵巣切除の既往など、何らかの理由で片方の卵巣が機能していない方(特に右の場合)は早めにステップアップ含め検討した方が良いかと思われます。(右を失った場合の妊孕性の低下は単純に左右健在の場合の半分ではないという可能性が考えられます。もちろん左だったら大丈夫ということではありません。)

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