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2016.08.20
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卵の評価は人ほどに難しく・・・卵は見かけによらぬもの
人は見かけによらぬもの??
ことわざ:人は見かけによらぬもの
意味:人は見かけによらぬものとは、人の性格や能力は外見だけではわからないということ。
類義:あの声で蜥蜴(とかげ)食らうか時鳥(ほととぎす)
読み:あのこえでとかげくらうかほととぎす
注釈:美しく、はかない声で鳴くホトトギスがトカゲを捕らえて食うことに驚かされる意味で、江戸時代の俳人、榎本其角の句から。人は見かけによらぬものなどと同義(故事ことわざ辞典より)
ところで、人は本当に見かけによらないのでしょうか?ここから先、私見ではありますが、大方の場合は見かけによるのではないかと思います。つまり、見た目の印象(見かけ)がしっかりしている人はある程度中身もしっかりしていることが多いようには思います。逆に、見た目がだらしない人はそれなりの人であることが多いようにも思います。しかし決して多いとは言いませんが、必ずしもこの通りでないケースもあり得ます。つまり、一見見た目はみすぼらしく見えても、心が豊かであったり、また逆に美しく着飾っていても心が貧しかったり・・・人の評価とは実に大変難しいものだと思います。
人に似て卵も見かけによらない場合がある
卵(受精卵)の評価も、人の評価と同じぐらい難しい場合があります。(と、言うよりも難しいものと私は考えています) 見た目の様子(=形態学的評価=見かけ)と本来の性質(その卵本来の評価。つまり、正常な赤ちゃんになれるかどうかという核心的な部分)が必ずしも一致しないということに度々遭遇します。具体的には、Gardner分類におけるグレード良好胚(一般的にはGrade3〜4以上でかつBB以上と評価されるもの=見かけ上は良い卵ですと判断された受精卵)を胚移植しても中々妊娠しないという場合があります。子宮側に着床障害を起こしそうな何か特別の問題(粘膜下筋腫、子宮奇形、内膜ポリープなど)があれば別ですが、そうでない方でも、複数回に渡って良好胚を戻しても着床すらしない・・・というような場合も実際にはあり得ます。そのような時、大抵の場合は”卵自体の問題だと思われるので仕方がないと思います・・・”などとお伝えはしますが、患者様側としては中々納得がいかない・・・というような方もおられるのではないかと想像します。(実際にごくうっすらでも、妊娠反応が出ていわゆる化学流産というような状態であれば、着床はしたんだな、でも、やっぱり卵の問題だったんだな・・と多少は納得もできるのではないかと思いますが・・)
上記のように、
実は卵の評価は見かけによらないという場合が結構あります。
卵=将来の人なので見かけだけでは内面の判断はできない・・・ということはある意味当然のことなのかもしれません。
PGS(Preimplantation Genetic Screening=着床前スクリーニング)とは?
PGSという言葉をご存知の方もおられるかと思います。これは受精卵から細胞の一部を採取して染色体異常の有無などの解析を行い染色体異常のない正常な卵(将来赤ちゃんになれる可能性の高い卵)のみを胚移植するという手法です。(以下、実際のPGSの様子をAdvansed Fertility Center of Chicago様のホームページより拝借いたしました。こちらは胚盤胞の外周にある栄養外胚葉と呼ばれる部分から細胞の一部を採取している様子です)
以下、Advanced Fertility Center of Chicago(AFCC)様のホームページリンクです(PGSについて書かれております)↓↓
http://advancedfertility.com/blog/category/preimplantation-genetic-screening/
PGSは救世主となり得るのか?
PGSから分かったこと
Female Age Percent of Embryos Aneuploid
(女性の年齢と卵子の染色体異常率 Advanced Fertility Center of Chicagoのデータより抜粋)
30歳 30%
35歳 35%
40歳 60%
42歳 75%
44歳 85%
こちらのデータが示すように、年齢が上がるにつれて卵子の染色体異常率は上昇していきます。染色体異常卵=将来的に流産となり正常な赤ちゃんになれない卵ということになります。このデータをみて驚かれる方もおられるかもしれませんが、実は30歳ぐらいの比較的若いとされる方でもおよそ30%の卵子が染色体異常であるということになります(この数字を多いと考えるか、少ないと考えるかは考え方次第ですが)。つまりどの年齢層でもある一定の頻度で染色体異常卵(=赤ちゃんになれない卵)が出てくるということになります。(もちろん年齢が若い方ほどその頻度は少なくはなります)
また、必ずしも形態良好胚=染色体正常胚、形態不良胚=染色体異常胚 とも言えないことも分かってきました。以下の写真を見たとき、皆さんはどちらの卵がより妊娠しそう・・だと思われますか?多くの方が向かって左側の卵を選ばれるのではないかと思われます。しかし、このような形態良好と思われる卵が必ずしも染色体正常胚とは限らないことが分かってきました。最終的に染色体正常か否かを判断するためにはPGSを行うしかありません。
(Advanced Fertility Center of Chicagoより拝借)
PGSの限界(出来ること出来ないこと)
さて、このように不妊治療における救世主とも思われるPGSですが実は限界もあります。もちろんPGSでも必ずしも100%の妊娠可能胚かどうかを見分けられるわけではない・・ということもありますが、そもそも、PGSを行うことによって移植可能胚自体は減ってしまいます。(染色体異常胚を見分けてふるいにかけるための手法であるため、ある意味当然と言えば当然です)つまり、
移植あたり妊娠率は増えても採卵あたり妊娠率には影響しないかもしくは減る(移植胚が減るため)
ということになります。とは言っても、流産の可能性の高い染色体異常胚を見分けるため、
流産自体は減らすことができます
つまり、これまでに良好胚を何回戻しても上手くいかない患者様や流産を繰り返している患者様にとってはPGSによる恩恵を受ける(救世主となるかもしれない)可能性があると言えます。
PGSは残念ながら日本ではまだ臨床応用が認められておりませんが、諸外国では普通のIVFクリニックでごく一般的に行われています。(Advanced Fertility Center of ChicagoでもIVFのオプションとして価格設定までされているようです)
このように、これまでの形態学的評価(卵の見た目の形がよいかどうかで妊娠するかどうかを判断する)だけでは限界があり、PGSを組み合わせることでより妊娠の可能性の高い胚を選択できる可能性が高まります。(残念ながら日本では認められておりませんが)
日本ではPGSが認められていないため、現時点での卵の評価は形態学的評価に止まります。そこで、タイムラプスという手法を行って、PGS程までは行かなくてもより妊娠の可能性が高い卵を選択するという方法が盛んに行われています。(タイムラプスはあくまでも形態学的評価の応用ということにはなってしまいます。しかし、PGSと違い卵に対する侵襲は全くありません。その点がタイムラプスの大きなメリットとも言えます)
タイムラプスについてはこちらを参照↓↓
生殖医療の世界は日進月歩です。様々な限界にチャレンジしながら日々技術革新が進んでいます。
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