不妊治療におけるこれまでの”常識”を覆す|クリニックブログ
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2016.12.14
不妊症
治療
不妊治療におけるこれまでの”常識”を覆す
基礎体温は本当に必要か?
妊活を始めると、多くの方がまず最初に始めるのが基礎体温の測定ではないでしょうか?毎朝一定の時刻に体温を測定し、”この日”と思われる日にタイミングをとり、高温相の温度変化に一喜一憂し、そして体温の陥落とともに気持ちも沈む・・・これは多くの方が実際に経験されているところではないかと思います。一般の産婦人科に、挙児を希望して受診したところ、まずは基礎体温を2、3ヶ月つけてから出直しなさい・・というようなことを言われた方もいるとかいないとか・・・ところで、基礎体温は妊活(不妊治療)をする上で本当に必要でしょうか?当院では、以下のような理由から、基礎体温の測定を行っておりません。やってみたいという方には無理に止めたりはしませんが、つけてくださいとは言っていません。なので、当院には基礎体温表も置いていません。これから始める不妊治療にあまり有用な情報が得られず、基礎体温をつけるという作業に相当のストレスを感じる患者様も多いことから、当院での治療には不要のものと考えております。
基礎体温から得られる情報はこれからの不妊治療にあまり有用ではない(と、考えている)
そもそも基礎体温とはどのようなものか?という所から考えてみたいと思います。卵胞が発育して排卵すると、排卵後の卵胞は黄体に変化します。発育卵胞→排卵→黄体形成という一連の過程は下垂体前葉から分泌される黄体化ホルモン(LH)の作用によります。一方、排卵後に十分な黄体形成がなされると、この黄体から黄体ホルモン(プロゲステロン)が分泌されます。このプロゲステロンは脳の体温中枢に作用して体温が上がります。排卵後黄体は約2週間ほど持続するので、黄体が持続する限り黄体ホルモンが分泌され、これが基礎体温上昇の原因となります。つまり、基礎体温を見ることで、黄体ホルモンの分泌があるかどうか?黄体ホルモンが作用しているかどうか?また、黄体ホルモンは排卵しないと分泌されないため、排卵したかどうか?が分かります。
しかし、ここで一つ重要なことは、基礎体温で分かることは、過去のある時点で黄体ホルモンが出ていたかどうか?過去のある時点で排卵した可能性があるかどうか?が分かるだけです(それだけです)。先月基礎体温が上がった(=先月は排卵があったであろうことが推察される)からと言って、今月同じように上がる(=今月排卵する)という保証もなければ、先月と同じぐらいの時期(先月がD14排卵だったからといって今月もD14排卵という保証は全くない)に排卵するという保証も全くありません。
と、いうような理由から、当院では、これからの不妊治療に基礎体温で有用な情報が得られるとは考えていないため、患者様に測定を勧めてはおりません(当院が知りたいのは過去の排卵の状況ではなくてこれからの排卵がどうかということです。基礎体温を見ることで排卵の有無の参考程度にはなりますが、これから始める治療に必須のアイテムとは考えておりません)
その薬は本当に必要か?
黄体機能不全という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。患者様の中には、最初から”私は黄体機能不全です”とおっしゃる方もおられます。一般産婦人科では、黄体機能不全の方によく黄体ホルモン製剤(デュファストン、ルトラール等)や、HCG注射を黄体賦活目的で使用するケースが多いと思われます。そもそもこの”黄体機能不全”ですが、正確な診断法は確立されていません。黄体機能不全の診断法として以下のような基準を使用する場合もありますが、基礎体温の測定誤差、毎周期同じ黄体機能、同じ条件であるとは限らない、など基準が曖昧であり、ある1つの周期のある時点でこの基準を逸脱したからといって”黄体機能不全がある”とは言えないのです。
1.高温期と低温期の温度差 0.3度以内
2.高温期持続期間 9日以内
3.子宮内膜の厚さ 8mm以内
4.黄体中期プロゲステロン(P4) 10ng/ml未満
患者様でよく、基礎体温の高温相持続期間が短い、基礎体温の高温相がない、黄体中期プロゲステロンが10ng/ml以下であった、などの理由からデュファストン、ルトラール、HCGなどを処方されている方がおられます。上記のような理由から、そもそも黄体機能不全の診断基準自体が明確ではなく、また、血中P4<10ng/mlとは言っても、それはある特定の周期のある時点だけの血中黄体ホルモン値を見ているだけに過ぎません。黄体中期採血でP4測定を行う一般産婦人科は多いのですが、たいていは血液検査を外注検査に出します(院内で迅速測定するところは不妊専門クリニック以外ではあまりないと思います)ので、結果が戻ってくるのは採血してから1週間ぐらい経ってからであることが多いです。黄体中期P4を迅速測定して、その時低いから、では黄体ホルモン補充を行いましょうというのであればまだ何となく理屈が通っている気もしますが、検査結果が1週間以上経ってから返ってきて、前の周期の黄体中期P4が低いから、次の周期から使いましょうでは何となく??な感じがしてしまいます。(わたくしだけでしょうか?)。 黄体機能不全診断の難しさについては↓↓のサイトも参照下さい。分かりやすいです。
良質の黄体は良質の排卵に付随するという考え方
黄体機能不全という病態を排卵という視点から見ていくと、少し世界が変わってきます。黄体とはそもそも排卵した後の卵胞がLH(黄体化ホルモン)によって出来上がるものです。十分な黄体からは十分な黄体ホルモン(P4)が分泌され、基礎体温が上がります。十分な黄体は十分に成熟したよい卵胞が形成されその卵胞から良質の卵子が排卵することによって形成されます。つまり、排卵の質を上げて、成熟卵胞→成熟卵子が排卵できれば自ずと黄体ホルモンも十分になるという考え方ができます。そのためには適切な排卵誘発がポイントになってきます。(自然周期でも十分な排卵ができる方は自ずと十分な黄体が形成されますが、排卵障害のある方では適切な排卵誘発→排卵惹起が必要になってきます)。
妊娠のためには基礎体温を上げることではなく、良質の排卵をさせることが重要。
基礎体温の高低に一喜一憂される患者様は実際に多いのですが、体温が上がる上がらないということよりも、そもそも質のよい排卵をしているかどうか?が妊娠には重要です。そもそも排卵の質が悪ければ黄体補充でデュファストン、ルトラールをどんなに飲んでも、HCGをガンガン打っても、妊娠しません。基礎体温を上げたからと言って妊娠する訳ではないのです。また、時々、黄体補充をしているのに、基礎体温が上がらないと訴える方がおられます。実は、デュファストン、ルトラールなどの合成黄体ホルモン製剤は天然型黄体ホルモンと比べて、体温上昇作用は弱いとされています。これらの薬剤の体温上昇作用は非常に弱いか、あってもごく僅かです。そもそも良質の排卵をすると、自分の黄体から天然の黄体ホルモンが分泌されますので、これが基礎体温の上昇作用を持ちます。黄体ホルモン製剤を飲んでいるのに基礎体温が十分上がらない・・のは、薬が効いていないのではなくて、そもそも自己の排卵が不良で自分の体の黄体形成が不十分な結果、自己の黄体分泌が不十分ということが考えられます。このような状態で、黄体ホルモン補充だけを行っても、あまり意味はないということになるかと思います。(黄体ホルモンなので、薬を使っている間、黄体期は持続します。つまり薬を飲んでいる期間は月経が来ないので見かけ上は黄体期が長く続きます。排卵の質が悪ければもちろん妊娠しないので、黄体補充の終了と同時に月経が来ます。)
”良質の排卵”に主眼を置いた不妊治療
当院では上記のような理由から、一般不妊治療(タイミング法、AIH)での黄体期の黄体ホルモン補充は行っておりません(ARTの場合はまた考え方が別です)。むしろ黄体期前の卵胞期の卵胞発育を重視しており、”良質の排卵”に主眼を置いた不妊治療を意識しています。良質の排卵が良質の黄体形成につながると考えているためです。(少し極端かもしれませんが、良質の排卵さえしっかりさせれば黄体機能不全は起こり得ないという考え方です)。当院では排卵障害のある方では、フェマーラ、クロミッドなどの排卵誘発剤を使用しています。十分な成熟卵胞が形成された段階で、排卵惹起のためにGnRHアゴニスト(ブセレキュア)点鼻薬を使いしっかり排卵を促します。成熟卵胞かどうかの確認のために、排卵日付近でE2(エストラジオール)を測定します。E2は卵胞成熟の指標となります。自然周期で単一卵胞発育の場合の成熟卵胞かどうかの目安は1卵胞あたりエストラジオール値200pg/mlです。排卵時期予測のためにLH(黄体化ホルモン)を測定します。LHサージの有無を確認して排卵日をおおよそ予測します。また、P4(プロゲステロン)を測定して排卵の有無を確認します。P4>1ng/mlで排卵したと判断します。E2 200pg/ml前後かつLHサージ未到来かつP4<1ng/ml、の場合はGnRHアゴニストスプレーを使用して内因性LHサージを起こし、排卵惹起を行います(俗に言うトリガーというものです)。良質の黄体(=十分な黄体機能)は、良質の排卵に付随するというのが当院の基本スタンスです。
生殖医療の世界は日進月歩であり、昨日の常識は明日の非常識だったりします(そのぐらい、技術革新は目覚ましく、治療法や考え方も日々進歩しています)。基礎体温表はこれまでの妊活に必須のアイテムだと思われてきましたが、当院では不要と考えています。基礎体温の高低に一喜一憂するくらいならもっと楽しいことを考えてストレスから解放されてみましょう。そうすると意外に、ある日突然、コウノトリがやってくるかもしれません・・・
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