子宮内膜症を有する不妊症患者に対する当院の考え方|クリニックブログ
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2017.06.18
不妊症
体外受精
治療
子宮内膜症を有する不妊症患者に対する当院の考え方
子宮内膜症合併不妊症
子宮内膜症は有経女性のおよそ10%に見られる病気です。子宮内膜症患者のうちおよそ30%〜50%が不妊症を合併しており、また不妊症患者の20%〜50%は子宮内膜症が原因とも言われており、子宮内膜症は不妊症と切っても切れない関係にあると言えます。残念ながら、日本人女性の多くは子宮内膜症に対する適切な治療を受けているとは言いがたく、子宮内膜症のある女性で産婦人科で治療を受けている割合はおよそ10%程度しかいないと言われています。日本の歴史的な物の考え方に、月経痛はあって当たり前、痛みは耐えるもの、お産の痛みは耐えるべきもの・・・など、痛みや苦しみは頑張って耐えるものという考え方があることも少なからず影響しているように思われます。若いうちからの日常生活に支障をきたすほどの月経痛は病的なもので異常であるという考え方を持つことが必要です。そういう方の中に将来の子宮内膜症のリスク因子となる方や、不妊症のリスクとなる方が含まれていることがあります。
子宮内膜症が不妊症の原因となる理由はいくつかあります。(以下列挙)
1、排卵障害(卵巣周囲が癒着して排卵しにくくなる)
2、着床障害(子宮内環境の悪化による)
3、ピックアップ障害(卵管周囲の癒着による)
4、受精障害(子宮内膜症患者の卵子は質が悪く受精障害等起こしやすい)
5、受精卵の輸送障害(卵管の癒着や炎症等で卵管内の線毛運動が阻害)
一般的に、子宮内膜症(特にチョコレート嚢腫)を合併する方ではAMHが低く、卵巣予備能が低いことも多く、体外受精の治療成績が非内膜症患者の方と比べて極端に悪いことが多いです。(内膜症患者の卵子の質は非内膜症患者のものより悪いことが多いともされている)
子宮内膜症合併不妊に対する当院の治療戦略
まず、初診時に内膜症の疑いのある方、過去に内膜症の指摘を受けたことがある方、または他院で内膜症の治療を受けた既往のある方、については、将来的に体外受精を視野に入れる可能性があるかどうかを確認します。(体外受精を視野にいれるかどうかで治療方針が大きく変わるためです)
1、体外受精を視野にいれない場合
あくまでも自然妊娠を目指すということになりますから、子宮内膜症が原因でピックアップ異常を起こしている可能性が考えられるケース(特に両側のチョコレート嚢腫のあるケースや付属器が明らかに子宮や骨盤腔に癒着しているようなケース)では、手術先行も視野に入れます。癒着剥離によってピックアップが回復したり、骨盤内の内膜症組織を除去することで骨盤内環境が改善し妊孕性が向上する可能性が考えられます。ただし、チョコレート嚢腫の場合は安易に切除を行うと、正常な卵巣組織も少なからず影響を受け、卵巣予備能が低下したり、残存卵子数が少なくなるなどのリスクを負うこともあります。チョコレート嚢腫の場合は大きさや悪性化の可能性の有無などを考慮の上で手術の適応を慎重に判断することになります。
2、体外受精を視野にいれる場合
体外受精を視野に入れている患者様に対しては、極力早い段階での体外受精へのステップアップを促しています。(特にこれまでに一般不妊治療歴のある方、不妊歴の長い方、子宮内膜症以外に男性側の要因なども合併している方・・・の場合)。内膜症があるだけでも卵巣予備能が低下しているケースもありますので、特にそのような方にはいずれ体外受精を希望しているなら、早い段階でのステップアップを勧めています。チョコレート嚢腫合併のケースでは、その大きさ、悪性の可能性の有無、採卵時のリスク等を考慮した上で、採卵を先行できる場合は体外受精先行を勧めています。チョコレート嚢腫を切除すると少なからず正常卵巣組織も影響を受け、もともと卵巣予備能が低い方ではさらに低下する懸念があります。(手術を先にすると場合によっては卵巣刺激を行っても全く卵が育たなくなるようなケースもあります) 体外受精を予定している患者では、採卵に先行してチョコレート嚢腫の摘出を行ってもその後の体外受精成績には影響しないという報告もあります。むしろ手術による卵巣機能低下の方が影響が大きいとも言われています。採卵先行によって幾つかの良好胚が確保できれば、その後の様子で手術適応を改めて検討することも可能です。ただしこの場合は、あらかじめ悪性の可能性が完全に否定できていること、採卵に伴う感染等のリスクが多少高くなる可能性があること、ある程度の大きさがあるケースでは不妊治療経過中に破裂のリスクを伴うこと、などを事前に説明し了承をいただいておく必要はあります。
難しいことにチャレンジするという認識と覚悟も必要
近年、妊活女性の高齢化によって、不妊治療開始時にすでに子宮内膜症やチョコレート嚢腫を持っている方が増えてきているように思われます。高齢妊活女性の場合は、治療にかけられる残された時間が少ないという意識を患者様側にも我々医療者と同じように共有していただくように努めています。特に子宮内膜症やチョコレート嚢腫などの合併症を有する方、パートナーにも原因のある方では、治療歴が全くなくて、初めて不妊クリニックにかかったらいきなり体外受精を勧められたと言ってショックを受けられた方も多いかもしれません。説明を尽くして不利な条件(高齢、内膜症、男性因子・・・etc)を克服して難しいことにチャレンジしようとしている・・・という認識を共有していただけるように我々も説明を尽くし患者様に寄り添っていきたいと考えています。
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