実はおろそかにできない、精子についての考え方|クリニックブログ
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2017.09.14
不妊症
検査
治療
実はおろそかにできない、精子についての考え方
不妊治療の負担は女性に重くのしかかるという現実
不妊症の原因は女性、男性およそ半分と言われています。一昔前までは一方的に女性側の原因のみが注目されることも多かったように思われますが、ここ最近男性不妊という考え方が徐々に定着してきました。それでも不妊治療における身体的負担の殆どは、やはりどうしても女性の側に重くのしかかるという現実があります。
不妊治療がなかなかうまく行かない場合によく、卵子の質のせいでしょう・・とか、卵自体の問題です・・など、女性側の原因がとくに強調される場面が多いと思われますが、精子の質というものも実は治療の結果を大きく左右する要素である、ということを強調しておきたいと思います。(考えてみますと、受精卵は半分卵子、半分精子から出来ているわけなので、当然受精卵の質=赤ちゃんになれるかどうかの部分では、精子の質も当然重要な要素となりえるのです)
精子と卵子の違い
精子は、卵子と違って、日々新しいものが作られています。(残念ながら卵子は生まれてから新しく作られることがありません。その女性が胎児期だったころに作られたものがそのまま卵巣内で休眠状態に入っており、それが第二次性徴を経て排卵に向かいますので、一般によく言われているように、その人と同じだけ歳を重ねたものということになります)。もちろん造精機能(精子を作り出す能力)は加齢とともに衰えますので、若い方と高齢の方が同じように作られるという訳ではありませんが、女性と違って男性では比較的歳を取っても精子は毎日作られています。
精子コンデイションの維持のために
それでは、良好な精子を維持するための具体的な方法とは何でしょうか?考えられるものとして、以下のような項目があげられます。
- 禁煙(タバコは精子にとっても当然悪いです)
- 精子形成、発育に必要な十分な栄養素(ビタミン(葉酸、ビタミンB群、ビタミンC、ビタミンDなど)、ミネラル(鉄、亜鉛、銅、マンガン)、タンパク質(精子細胞を構成する細胞内器官や酵素の本体はタンパク質です)、脂肪酸(ω3系の脂肪酸は精子の細胞膜の機能を維持し、精子形態に重要な要素となります)
- ストレスのない生活(ストレスは活性酸素の発生源となり、精子DNAの損傷の原因となる)
- 過度の飲酒(過度の飲酒は代謝の過程でビタミン、ミネラルを大量に消費して欠乏を招く)
- 精子をため過ぎること(精子は毎日つくられます。ただし古い精子がたくさんあると、そこから活性酸素が分泌され新しい精子の産生を阻害したり、精子DNAの損傷につながったします)
精子をおろそかにできない理由
一般不妊治療(タイミング法、人工授精)の場合でも、精子の状態が良いと悪いとでは当然結果が変わります。体外受精を行う場合、精液所見によって一般体外受精とするか、顕微授精とするか、治療方針が大きく変わります。体外受精と顕微授精では、媒精後の胚盤胞発生率などに差が出たりする場合もあります。(受精率だけを比較すると当然顕微授精の方が高い傾向にはありますが、その後の胚発生や妊娠率、流産率などを比較すると一般体外受精の方に軍配があがるケースもあります。やはり人為的操作の加わらない自然に受精した卵だから・・・ということになるのでしょうか)。ART(生殖補助医療)の適応が純粋な男性因子だった場合、精液所見の改善によってはステップダウン(ARTからAIHやタイミング法への変更)も視野に入る場合があります。もちろんその間の女性の加齢や年齢の影響は考慮しなければなりませんので、一概に男性の精液所見だけをもって治療方針を決めるという訳ではありませんが。
このように考えると、精子の状態というものは実はおろそかにできない・・・ということが言えると思います。ART→一般不妊治療へのステップダウンが可能になれば、当然女性側にかかる身体的負担は減らせますし、治療にかかる経済的負担も減らせます。また、仮にタイミング法や人工授精などの一般不妊治療を行う場合の成功率も上がりますし、体外受精を行うにしても顕微授精ではなく通常体外受精でいける場合も出てくるかもしれません。また、仮に顕微授精が必要であっても、精液所見が非常に悪い状態での顕微授精より多少でもよい状態の方が良好精子を回収できる可能性は高まります(治療あたりの成功率が上がる=治療の期間が短くなる=負担が減る)。なので、不妊治療を行う上で、精子の状態というのは実は非常に大事になってくるのです。
夫婦が向き合うことも大事だが、同じ方向(目標)に向かって進むことがもっと大事ではないでしょうか?
不妊治療をしているご夫婦を見ていると、時々夫婦間の温度差を感じる場合があります。男性因子がメインなのに、どことなく旦那さんが他人事のようであったり、奥さまは旦那さんに禁煙をして欲しいのだけど、なかなか言い出せないとか、そういうご夫婦はよく見かけます。夫婦が一見向き合っているように見えても、向いてる方角が違う(目指している方向が違う、夫婦間の温度差)ということは時々経験します。精子の状態も不妊治療の結果を左右する重要な要素です。(当然と言えば当然なのです)。奥様だけの努力ではなかなか越えられない壁も夫婦が協力することで越えられる壁になることもあるかもしれません。また、旦那様の協力(例えば禁煙)が、奥様にかかる身体的な負担の軽減につながる場合もあるかもしれません。夫婦が向き合うことも大事なことですが、同じ方向(目標)に向かって共に進んで行くということが、ゴールの見えない不妊治療においては実はもっと大事なことなのかもしれません。
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