インプランテーションウィンドウ(着床の窓)|クリニックブログ
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2017.10.29
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インプランテーションウィンドウ(着床の窓)
インプランテーションウィンドウ(着床の窓)とは?
インプランテーションウィンドウ(Implantation Window)という言葉をご存知の方も多いかと思います。日本語では着床の窓と訳されます。インプランテーションウィンドウとは、受精卵が子宮内膜に着床する際に、子宮内膜側が受精卵を受け入れることのできる時期を指します。妊娠が成立するためには受精卵が子宮内膜上に存在して、子宮内膜に定着し、子宮内膜側が受精卵を受け入れることができなければなりません。子宮内膜には受精卵を受け入れられる一定の時期というものがあって、いつでも関係なく着床できるという訳ではないのです。
妊娠成立の条件
自然妊娠の過程では、排卵した卵子と精子は卵管膨大部で出会い受精が成立、受精卵はおよそ5日かけて卵管膨大部から卵管内を運ばれて子宮内に到達します。この間、受精卵は分割期胚を経て子宮内腔に到達するころには胚盤胞の状態まで成長しています。一方、子宮内膜は排卵後の卵巣から分泌されるP4(プロゲステロン)の影響で細胞構造が変化し、受精卵を受け入れるための準備が進められます。この際、卵管内を移動中の受精卵から子宮内膜に向けて各種のシグナルが送られていると言われています。子宮内膜は卵巣黄体から分泌されるプロゲステロンや受精卵側から送られるシグナルを受けて受精卵の着床に必要な各種調節を行います。(この受精卵側からのシグナルを応用した方法が2段階胚移植やシート法と呼ばれる胚移植法です)。子宮内膜が着床に向けて細胞構造を変化させて受精卵の受け入れが可能になるのは、排卵から5日後(卵巣黄体からのプロゲステロンの分泌開始からおよそ5日後)と言われており、これより早すぎても遅すぎても子宮内膜側が受精卵を受け入れることができないため、妊娠が成立しません。つまり、5日目胚盤胞の状態の受精卵が5日目の状態の子宮内膜上に存在することが必要であり、妊娠するためには受精卵の発育ステージと子宮内膜の日数が一致している必要があると言われています。
分割期胚移植がなかなか成功しない場合の対応
体外受精後のD2、またはD3ETで受精卵を戻した場合は、受精卵は子宮腔内を数日漂いながら胚盤胞の状態にまで成長し、子宮内膜の状態が受精卵の受け入れ可能な状態になってうまく一致すれば妊娠が成立します。胚盤胞移植の場合は、受精卵側はすでに着床直前の状態にまで成長しているので、あとは子宮内膜側を受け入れ可能な状態に調整することができれば妊娠が成立するということになります。これまでの体外受精で複数回の分割期胚移植(D2、D3ET)を行っているにもかかわらず、なかなか妊娠しないケースでは、そもそもの受精卵の質自体の問題(受精卵自体が子宮腔内で胚盤胞まで到達できていない)も考えられますが、インプランテーションウィンドウがずれているために着床できないという可能性も考えられ、次なる戦略としては胚盤胞凍結して周期を変えてインプランテーションウィンドウを一致させて移植を行うという方法が考えられます。また、多数の卵胞発育が見られる高刺激法の採卵周期では、採卵が近づいてくる(卵胞が多数育ってくる)と、P4上昇が見られることがあります。(これは排卵前から一つ一つの卵胞からはごく微量のプロゲステロンの分泌が始まっていますが、卵胞が多数あることで、一つ一つの卵胞から分泌されるプロゲステロンが合算されてプロゲステロンレベルが上昇するためです)。よって、多数卵胞が発育した周期ではP4上昇によってインプランテーションウィンドウが早めに開く(着床の窓がずれる)可能性が考えられ、こういう周期で分割期胚移植(新鮮胚移植)を行っても受精卵が着床できないという可能性が考えられます。よって、このような場合は着床の窓を一致させる目的で全胚凍結をして周期を変えて移植を行うということをよくやります。
高齢患者様の場合
高齢患者様では、胚がストレスを受けることで成長が遅くなる場合がよくあります。(D5で胚盤胞到達せず、D6でようやく胚盤胞到達するなどのケースがよくあります)。これは体内でも同じようなことが起こっていると推察されます。D6胚盤胞がD5の子宮内膜上にあっても着床の窓がずれていれば着床できないので妊娠が成立しません。高齢患者様の自然妊娠が難しい理由は胚の質の問題も考えられますが、胚の発育に時間がかかることによって着床の窓がずれてしまい子宮内膜が胚を受容できないためという考え方もできます。こういった場合は、胚盤胞に育った受精卵を一旦凍結保存して周期を変えることで、着床の窓のズレを解消できます。
凍結胚移植のメリット・デメリット
凍結胚移植はインプランテーションウィンドウのずれを解消する最もよい方法です。採卵前のP4上昇によって着床の窓が早めに開いた場合は無理にその周期で新鮮胚移植をせず、凍結して周期を変えることによって着床の窓のずれを解消できます。また、高齢患者様のケースでは胚の発育遅延によって生じた胚と子宮内膜のずれを凍結操作によって周期を変えることで解消できます。一般的に新鮮胚移植より凍結胚移植の方が妊娠率が高い理由は、インプランテーションウィンドウを一致させて移植をできるという点になります。デメリットとしては、凍結融解操作の際に胚にストレスがかかることや、胚盤胞凍結を行う場合は体外培養時間が長くなることによる胚へのストレス、凍結融解にかかるコストの問題(費用が高い)などがあります。
着床障害の新しい検査法
ERA(Endometrial Receptivity Array)検査とは?
良好胚盤胞を複数回移植しているにもかかわらず中々着床しない患者様に行う検査として、近年ERA検査(子宮内膜着床能検査)とういものが出てきました。具体的には、凍結融解胚盤胞移植する際、移植する当日の内膜が着床可能な状態にあるかどうかを、子宮内膜を採取し遺伝子レベルで調べる検査です。子宮内膜の状態を着床可能に整えているつもりでも、遺伝子レベルでは準備が整っていない場合もあります。この検査はいわゆるインプランテーションウィンドウ(着床の窓)が開いている時期がいつなのかを遺伝子レベルで調べる検査です。検査費用10万円台〜と高額の費用がかかる検査ですが、これまで体外受精で反復着床不全の患者様においては次なる治療戦略の参考として検討してみる価値はある検査ではないかと思います。
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