妊孕性を高めるための理想的な禁欲期間について|クリニックブログ
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2018.01.27
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妊孕性を高めるための理想的な禁欲期間について
理想の禁欲期間とは?
理想の禁欲期間について考えたことがあります?精子は長く溜め過ぎない方が良い・・というのは患者様に良くお伝えしていることですが、理想の禁欲期間というのはどの位なのでしょうか?以下の論文を紹介致します。出典は2014年のFertility&Sterilityです。
この論文では禁欲1日と4日のケースを比較しています。sperm volume(精液量)、total sperm count(総精子数)では明らかに禁欲1日(つまり2日前に出したばかり)の方が少ないという結果です。(これはある意味当然の結果です)
The impact of ejaculatory abstinence of 1 day (EA1) vs. 4 days (EA4) on semen analysis parameters (n = 40).
Parameter | EA1 (±SD) | EA4 (±SD) | Mean differencea | % Changeb | P valuec |
---|---|---|---|---|---|
Volume (mL) | 3.1 ± 1.0 | 4.0 ± 1.9 | −0.89 | −24.0 | <.001 |
Sperm density (millions/mL) | 36.6 ± 27.1 | 50.5 ± 24.4 | −14.16 | −3.2 | <.02 |
Motility (%) | 61.6 ± 14.1 | 61.7 ± 12.4 | −0.018 | 4.2 | .99 |
Normal morphology, Kruger strict (%) | 2.1 ± 1.6 | 1.2 ± 0.9 | 0.9 | 12.1 | .06 |
Total sperm count (millions) | 112.5 ± 77.4 | 201.8 ± 83.2 | −87.5 | −28.4 | <.001 |
WBCs (no. per 100 sperm) | 0.6 ± 0.3 | 0.5 ± 0.2 | 0.15 | 3.7 | .31 |
禁欲1日と4日で比較した精液中の抗酸化物質の総量について以下のデータも示されています。
禁欲1日と禁欲4日では、活性酸素(ROS)から精子を守る抗酸化物質(TAC)の働きに差が出るというデータ。TACの働きについて、禁欲1日の方が有意に高い
人工授精(IUI)の妊娠率について
別の論文になりますが、人工授精周期の禁欲期間と妊娠率の関係を調べたものを紹介いたします。↓↓
Effect of ejaculatory abstinence period on the pregnancy rate after intrauterine insemination
これによると、禁欲期間3日以内の方がIUIの妊娠率は高くなるとされています。一般的な精液検査で表示されるパラメーター(濃度、総精子数、運動率等)以外の要因(質や機能的な要因)が関係しているのではないか?とも指摘されています。
これらの事実から導き出される結論
人工授精や体外受精を行う際に精液所見を確認しますが、この際に確認する総数(Total sperm count)、濃度(concentration)、運動率(motility)などのいわゆる精液一般のパラメーターは妊孕性(パートナーを妊娠させる力)を占う上で一応の参考にはなる要素ですが、実はそれ以上に精子自体の質(quality)が大事であるということは見逃されています。精子のqualityとはつまり、精子頭部のDNA構造が正常かどうかということになりますが、精子の質を規定する要因の一つに、精子DNAの断片化がどのくらいか?(DNAの断片化とはDNA二重らせん構造がちぎれるということを意味します)というものがあります。ROS(活性酸素)はこの精子DNAの断片化に関係する有害物質ですが、禁欲期間を長くする(精子を溜めすぎる)とDNA断片化に関係する活性酸素が増えることが分かっています。(最初の論文では、禁欲1日と4日を比較して、ROSを抑える抗酸化物質(TAC)が禁欲1日の方が多かったということを示しています。つまり禁欲が長いとROSから精子を守るTACが消費されるという解釈ができるのではないかと思われます)。患者様の中に、精液検査のパラメーターの推移に一喜一憂される方も多いのですが、数字として目に見える要因よりもむしろ、精子の質を規定するDNA断片化の有無に着目した方がより良いということが言えます(射出される精子そのものにはある程度のDNA断片化したものが含まれますが、問題はDNA断片化したものがどのくらい含まれるか?多いのか?少ないのか?ということが、最終的な妊孕性に関係していると考えられています)。最初の論文で示しましたが、禁欲期間を短く(頻回に出す)すると、一見、精液量、総数は減りますが、妊孕性の高い質の高い精子を確保できるということが言えるのではないかと思います。
つまり
妊娠できるかどうかを決める要因としては精子の質が重要。精子の質を規定する要因の一つに精子DNAの断片化(DNA構造が正常化どうか)の有無があり、DNA断片化を引き起こすのは精液中の活性酸素。長く溜めすぎると精液中の活性酸素が増え、DNAが断片化し精子の質の低下をもたらす。理想的な禁欲期間は中1日程度(つまり1日おきに出す)ぐらいが理想(長くても3日以上は溜めない)。禁欲を短くすると精液検査のパラメーター(精液量、総精子数)は一見低下するが、数字に見えない精子の質(DNA断片化が少なく質の良い精子)は向上する。体外受精周期はもちろんのこと、人工授精周期、タイミング法、病院に通う前の自己流タイミング法の全てにおいて射精回数を増やすこと(禁欲期間を可能な限り短くすること)が妊娠に最も近づく方法となる・・ということではないかと思われます。
精子の役割は如何に状態の良いDNAを卵子に運搬するか?ということです(精子=運び屋)。精子は頭部がDNAの塊であり、そこに尻尾がついた、いわゆる”おたまじゃくし型”をしていますが、これは効率よくDNAを運ぶためにこのような形になったと言われています(諸説あるかもしれませんが)。(写真はコペンハーゲン市内を走るsperm bikeと呼ばれる乗り物です。デンマークの精子バンクが各クリニックに凍結精子を運搬する方法として利用しているそうです。頭部に各クリニックにお届けする大切な凍結精子を搭載しています。sperm bikeが街を疾走する光景、日本ではなかなか想像ができませんが生殖医療先進国ならではの光景ではないかと思われます。sperm bikeは環境に配慮して??人力だそうです。)
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