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2023.02.12
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保険診療9ヵ月 現在の立ち位置について(2022年12月末現在)
保険診療開始9か月 現在の立ち位置について(2022年12月末現在)
不妊治療の保険適応拡大(生殖補助医療の保険適応開始)後、およそ9か月が経過したところで、現在の保険診療の状況(体外受精成績等)、従来法(オーダーメイド治療)との比較についてまとめました。
当院でも、2022年4月以降、保険による体外受精を提供しています。比較的年齢層の若い患者様(20代後半〜30代前半)を中心に、特に初回体外受精で保険診療を選択いただく傾向にあるように思われます。一方、高年齢の方やこれまで他施設ですでに治療を行っておられるが、結果が出ていない患者様では従来通りのオーダーメイド治療を選択される傾向にあるように思われます。
保険体外受精の卵巣刺激法
当院の保険体外受精では、4月の開始以降様々な紆余曲折、改良を重ねてアンタゴニスト法をベースとした中刺激法(rFSH注射+アンタゴニスト)による卵巣刺激法を採用しています。保険診療では治療計画の作成が必須とされており、この治療計画においては採卵と胚移植を一体とした治療計画を作成する必要があるとされていますがこれは現在のところ4月以降大きな変更点はありません。(保険診療では将来使う卵を保険で確保するいわゆる貯卵行為が禁止されています。つまり胚移植を前提とした治療計画である必要があり、4月以降この考え方は変わっていません)。そのため、胚移植が延期となる可能性の高い高刺激法(特に貯卵を目指すような従来のスーパーストロング法)は選択せず、おおむね平均2個~10個程度の卵子数確保を目指せるような中刺激法(獲得できる卵子数は患者様の状態やAMHにより前後します)を中心とした卵巣刺激法を選択しています。(ここに到達するまでには多少の紆余曲折を経ています)
また、通院負担を軽減するため、卵巣刺激に使うFSH注射剤は、ペン型自己注射を採用しています。(ゴナールFペン)
媒精方法の選択
保険診療では、上記方法で獲得された卵子に対して、一般体外受精または顕微授精を実施します。媒精方法の選択については、純粋な医学的適応をもとにして決めますが、この際参考とするのがWHOの精液所見基準になります。WHO基準をクリアする方については保険診療のルールに従い原則一般体外受精を採用しています。
胚培養
胚培養の過程で、希望者にはタイムラプスインキュベーターによるタイムラプス培養を実施しています。タイムラプスは先進医療Aに位置づけられており、保険診療と併用して行うことが認められた自由診療による医療行為です。タイムラプスの特徴としては、観察のたびに胚の出し入れを行う必要がなくより安定的で胚への負担の少ない培養環境が維持できるという点が最大の特徴になります。特に、複数個の卵子が確保できた患者様については全ての胚を観察するまでには時間がかかることもあり、より胚へのダメージを抑えるという観点からはタイムラプスの選択をご検討いただくことをオススメしております。(タイムラプスは特に、胚盤胞培養を目指す長期培養との相性がよく、胚へのダメージを極力抑えた効率的な培養により良好な胚盤胞到達率を達成しています)
胚移植および余剰胚凍結
胚移植は受精後2日目、または3日目に新鮮胚移植を原則行います。学会見解を遵守するため、1個の胚を子宮内へ移植する単一胚移植を選択しています。また、余剰胚については分割胚>胚盤胞の優先順位をつけて凍結保存を実施します。(保険診療では採卵と移植を一体とした運用が求められるため、治療計画の段階で胚移植を前提とした治療計画が必要になります。また、厳密な医学的適応に基づいた運用が求められています)
治療成績成績
治療成績は以下の通りでした。
患者ごとの治療法選択内容の内訳(保険診療を選択した患者と自由診療を選択した患者の割合)
保険診療25%
自由診療75%
治療患者の平均年齢(保険診療vs自由診療)
保険診療平均年齢 34.7歳
自由診療平均年齢 39.6歳
*2022年1月~3月(保険診療開始前)の患者平均年齢 37.7歳(参考値)
治療成績(移植当たり妊娠率=妊娠数(胎嚢確認)/胚移植件数 )
新鮮胚移植
保険29%(8/29)
自費28%(10/36)
凍結胚移植(胚盤胞移植)
保険41%(7/17)
自費51%(191/373)
凍結胚移植(分割胚融解胚移植)
保険17%(2/12)
自費7%(2/54)
結果に対する考察
保険診療の開始に伴い、保険診療平均年齢34.7歳 vs 自由診療平均年齢39.6歳と、5歳程度保険診療患者の治療平均年齢が若年化しており、特に若年の方や初めて体外受精にステップアップした方はまず保険診療で始める方が多いことなど踏まえると、治療に対する患者サイドのハードルが下がった、治療に一歩踏み込みやすくなったという解釈が成立すると思われる。いつでもどこでもだれでもが保険診療の最大の売りであることを考えると、当院においてもこの保険診療の理念達成という一定の効果は得られたと考えられる。
治療成績については、各移植方法ごとに保険と自費で差が出たもの、逆に差が出なかったものと分かれた。
新鮮胚移植については、保険と自費で明らかな差はなく(保険移植あたり妊娠率29% vs 自費移植当たり妊娠率28%)、どちらも全国平均の数値と比較してもおおよそ遜色のない結果であった。採卵後、受精卵が確保され移植可能胚が得られたケースにおいては、移植のチャンスを少しでも確保する観点から新鮮胚移植ができる状態のケースについては積極的に移植へ進むことは妥当であり、、ある一定程度の結果をもたらすことが推察され、これは保険、自費どちらを選んでも大きな違いは出なかった。保険診療を選択するケースについては、保険のルール上も胚移植と採卵を一体として行うことが求められており、その結果として全国平均に近いおおよそ一定の治療成績が期待されるという点において、保険診療の標準化医療という目的は当院においてもほぼ達成されていると推察される。
一方、胚盤胞移植においては保険と自費で移植当たり妊娠率におよそ10%の違いが発生した(保険胚盤胞41% vs 自費胚盤胞51%)
これについては単純比較はできないが、自由診療を選択されるケースにおいては様々な個別化対応が可能であった点が挙げられる(黄体補充の方法、ホルモン値に応じた移植日程の調整、ホルモン値に応じた各種調薬等・・etc) また、自由診療を選択されるケースでは、事前にいわゆるERA、EMMA、ALICEを実施した後、対応する項目を修正または対処した後の移植へ進んでいるケースも少なからず存在し、このような移植に先立つ様々なオーダーメイド対応が結果に反映されていると推察される。
今後の当院の目指す方向性
今後の方向性としては、全国平均の標準医療を求める方は保険診療による治療、逆に全国平均以上の結果を求める方に対しては、当院が従来より提供しているオーダーメイド治療により、治療の2極化がさらに進むと考えられる。当院はこれまで同様患者様のニーズを考慮した柔軟な治療提供体制を整備いくことを目指して参りたいと考えています。当院は、あくまでも治療の選択権は患者様にあるというスタンスを重視し、これまで以上に患者様の希望を重視した治療提供体制を維持していく所存です。
医療法人佐久平リプロダクションセンター
佐久平エンゼルクリニック
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