3.

当院での体外受精の方法について

体外受精には卵巣刺激、採卵、媒精、培養、凍結、胚移植などの段階があります。
以下当院の体外受精における卵巣刺激、採卵、媒精、胚移植に関する特徴、考え方を記載しました。

卵巣刺激

卵巣刺激とは排卵誘発剤で卵巣を刺激して卵子を育てる段階です。排卵誘発剤の使用量や方法により高刺激法(ロング法、ショート法、アンタゴニスト法)と低刺激法(クロミフェン刺激、レトロゾール刺激)、排卵誘発剤を全く使用しない自然周期法などに分類されます。それぞれに長所短所があります。

高刺激法
高刺激法では卵巣の状態が良い方では一度に多くの卵子を回収することができます。高刺激法のメリットは一度に多くの卵子を回収出来る(=凍結出来る卵子が獲得できる可能性が高い)、凍結卵を早く獲得出来る(=治療期間が短くてすむ)、採卵回数が結果的に少なくてすむ(=治療の効率がよい)、スケジュールの調節性に優れている(=治療と仕事の両立がしやすい)などです。一方、デメリットは、大量の排卵誘発剤を使用することによる体への負担や副作用の問題(卵巣過剰刺激症候群など)、注射代などの薬剤費(コスト)がかかるという問題、多数の卵胞を穿刺することによるリスク(出血、腹痛、感染など)、大量の排卵誘発剤で卵巣に負担がかかり卵巣機能が悪くなる可能性がある、多数の卵胞を穿刺するため採卵時には麻酔が必要となるなどです。
低刺激法
クロミフェンという飲み薬の排卵誘発剤で卵巣をマイルドに刺激し、卵巣にかかる負担をなるべく軽くしながらかつ複数個の卵子回収を目指す方法を行います。しかしクロミフェンで良質の卵子が取れない場合もあります。その場合、当院では第2選択としてレトロゾール(これもクロミフェンと同じく内服薬の排卵誘発剤です)への変更を行います。低刺激法のメリットは体への負担が軽い、薬剤費が低く抑えられる、採卵時に麻酔が不要などです。低刺激法の欠点は獲得卵子数が高刺激法に比べて少ないため、凍結できる卵子数が少ない(=移植できる卵子数が少ない)、良好胚が獲得出来るまでの採卵回数がおのずと多くなる(=結果的には回数が増える分かかる費用が増える可能性がある)、良好胚が獲得出来るまで時間がかかる可能性がある(=治療期間が長くなる可能性がある)などです。
自然周期法
自然周期法では、刺激法に見られるような副作用の可能性は低くなりますが、回収卵子数が少なく、1回の採卵あたりの治療効率が低い、スケジュールの調節性が悪く仕事と治療の両立が難しいという欠点があります。当院ではこれらを考慮して、よほどの希望のある方以外では自然周期法は行っておりません。

卵巣刺激法にはそれぞれの方法に長所、短所があり、一概にどれがよくてどれがダメとは言えません。患者様ごとに適切な方法を見極めて使い分けることが重要です。

当院の体外受精に対する考え方では、個々の患者様ごとの状況(卵巣の状態やその他身体的な状態、仕事のスケジュール、通院可能かどうかなど)をなるべく正確に把握し、少ない採卵回数、短い治療期間で仕事と治療を両立させながら無理なく効率的に妊娠という結果を少しでも早く導き出すことを心がけています。


採卵

当院では採卵の際に21G(ゲージ)針という極細の採卵針を用いています。針が細いために痛みが少なく、採卵時の出血が少ないのが特徴です。 痛みの強さとしては採血と同じぐらいとお考え下さい。もちろん痛みの感じ方には個人差があるため、それでも痛いと感じる方はおられるかもしれません。痛みが心配な方には鎮痛剤の使用も可能です。

高刺激法(ロング法、アンタゴニスト法)では、育つ卵胞数が多く、穿刺回数が多くなるため、多くの場合採卵時に麻酔をかけて行います。麻酔時は痛みを感じることはなく、麻酔が覚めてからも、採卵針が細いために痛みが残るということはほとんどありませんが、穿刺卵胞数が多いため採卵後数日はあまり無理をせずにお過ごし下さい。

低刺激法では穿刺する卵胞数が2、3個程度であることが多いため処置時間が短く、採卵時間はおよそ5分程度です。麻酔をかけずに採卵が可能であり、採卵終了後はそのまますぐに帰宅が可能です(状況によってはしばらくお休みいただく場合もあります)。低刺激法で採卵をされる場合は多くの患者さまが車で来院され、採卵後にそのまま仕事に行かれたりしています。採卵後の痛みは多くの方では翌日ぐらいまでにはおさまっていますが、採卵後数日間は激しい運動などは控え、あまり無理をなさらずにお過ごし下さい。


媒精

媒精とは卵子と精子を出会わせて受精させる段階です。
通常の体外受精(conventional IVF=cIVF)と顕微授精(ICSI)があります。

cIVF(通常の体外受精)

cIVFとは卵子に選別した元気のよい精子を振りかけて受精させる方法です。 自然界の競争を勝ち抜いた、より強い精子が卵子と出会うことから自然の妊娠に近い方法と言えます。

顕微授精

一方、顕微授精は1個の卵子に状態のよい1匹の精子を選んて細いガラスピペットを用いて顕微鏡下に微鏡下に精子を卵子に注入して受精させる方法です。精子数が極端に少ない乏精子症の方(一般に精子濃度が15×10^6/ml以下)、精子運動率が極端に低い精子無力症の方(一般に精子運動率が40%以下)、これまでに通常の体外受精(cIVF)で受精しないまたは極端に受精率の低い方、奇形精子症の方(正常形態精子が4%未満)、などでは、通常の体外受精(cIVF)での受精困難が予想されるため、顕微授精の適応と考えられます

当院の顕微授精の特徴

当院では顕微授精を行う際にピエゾと呼ばれる方法で行っています。従来法のICSI(conventional ICSI)では先端が尖ったピペットで卵子の細胞膜を刺し、吸引圧をかけながら穴を開けるため、細胞膜が脆弱な卵子や加齢卵子では透明帯や細胞質の変形、卵子の変性や受精率低下につながる可能性があるとされていました。ピエゾICSIとは先端が平坦なピペットを圧電素子によって振動させ、微細な振動によって卵子の細胞膜に穴を開ける方法で行います。卵子の細胞膜を破る際に吸引圧をかけないため、従来法のICSI(conventional ICSI)に比べて卵子に対する負担が少なく、受精率の向上やその後の胚盤胞到達率の向上が期待できます。

従来法のICSI

ピエゾICSI

体外受精時の媒精方法に対する考え方

当院では、体外受精時の媒精方法(通常の体外受精にするか、顕微授精にするか)について、採卵当日の精液の状態を確認しその時々の精液所見より最適と思われる方法を選択しています。なので、普段精子の状態がさほど悪くない方でも、採卵当日の精子の状態が不良であれば顕微授精を勧める場合もあります。逆に普段の精子の状態があまり良くない方でも採卵時の精子の状態がたまたま良く、通常の体外受精が可能となる場合もあります。

顕微授精から着床直前の胚盤胞という状態までの卵の発育段階

ICSI

顕微授精実施時の様子

採卵によって得られた卵子にこれから顕微授精を行うところです。卵子が透明帯(卵子の周りを包む糖タンパク質の帯状の膜)に覆われており、卵子の12時方向に第1極体(粒状の構造)が見られます。第1極体が出現したことを確認して成熟卵子(MⅡ卵子)と判断し、精子の注入に進みます。

2前核胚

D1顕微授精翌日の様子

顕微授精後1日経ち、受精が成立し受精卵となった卵子の様子です。細胞の中心に2個の前核が並んでいるのが確認できます。2個の前核が確認できたかどうかをもって正常受精かどうかを判定しています。

4細胞期胚

顕微授精後2日目の様子


Veeck分類
顕微授精後2日経ち、受精卵が細胞分裂により4分割胚になった様子です。割球の均一性、大きさ、出現のタイミング、フラグメント(割球の周りにある小さなつぶつぶ)の程度等により初期胚のグレード分類(Veeck分類)を行います。

8細胞期胚

顕微授精後3日目の様子

顕微授精後3日経ち、受精卵が8分割程度に進んだ状態です。

拡張期胚盤胞

顕微授精後5日目の様子

Gardner分類
顕微授精後5日経ち、受精卵が胚盤胞まで進んだ状態です。胚盤胞は内細胞塊と呼ばれる将来赤ちゃんになる内側の部分と栄養外胚葉と呼ばれる将来胎盤になるリング状の外側の部分からなり、内細胞塊と栄養外胚葉の形態および胚盤胞の発育の状態からグレード分類(Gardner分類)が行なわれます。


培養

最新のインキュベータ

当院ではタイムラプスとよばれる培養法を行っており、そのための専用のインキュベーター(EmbryoScope™)を導入しています。タイムラプス培養では受精卵の発育過程を連続的に動画として記録することで、妊娠の可能性のより高い良好胚を選択することが可能となります。また、EmbryoScope™は内部に顕微鏡とカメラを備えているため、受精卵の発育の様子をインキュベーターの外に出さなくても付属のモニターで観察することが出来ます。 通常のインキュベーターでは観察のたびに受精卵を外に出す必要があるため、紫外線への曝露、pH変動、温度変化、CO2濃度変化、といった環境ストレスが受精卵にかかる原因となっておりました。EmbryoScope™による培養は卵にやさしい培養であると言え、特に胚盤胞培養のような長期培養を行う際には、非常に有効であると言えます。


胚移植

胚移植は体外受精の成功率を左右する最も重要かつ最終のステージです。どんなに良好胚を用いても最後の胚移植が失敗すると着床しません。
胚移植には大きく新鮮胚移植と凍結胚移植の2つの方法があります。

新鮮胚移植
受精卵を凍結せずに採卵周期と同一周期で移植する方法です。
凍結胚移植
受精卵を一度凍結保存し、採卵と別の周期で移植する方法です。

当院は、日本産科婦人科学会の”生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解”を順守するため、移植胚の個数は原則1個とさせていただいております。ご理解の程よろしくお願いいたします。

当院では以下のような考え方に基づいてホルモン補充周期下の凍結胚移植(胚盤胞移植)をスタンダードプロトコールとしていますが、卵巣刺激の方法や子宮内膜の状態を考慮して新鮮胚移植を選択する場合もあります。

1、Implantation Window(インプランテーションウィンドウ=着床の窓)という考え方

インプランテーションウィンドウとは”着床の窓”とも言われます。
受精卵が子宮内膜に着床するのには最適な時期があり、排卵後6~7日目ぐらいとされています。
この着床に最適な時期をインプランテーションウィンドウと言います。子宮内膜はエストロゲン、プロゲステロンの作用により受精卵を受け入れやすい状態に調整されます。

自然の状態では、排卵後およそ6~7日目の状態の受精卵がインプランテーションウィンドウ期に当たる子宮内膜(排卵後6~7日)上に存在することで着床が進むとされています。6~7日目の状態の受精卵とは胚盤胞に成長してハッチングしているぐらいの状態に相当します。つまり受精卵の発育と子宮内膜の状態が一致していることが必要となります。着床するためには排卵後6~7日目の状態の受精卵が排卵後6~7日目のインプランテーションウィンドウ期の子宮内膜上に存在することが必要ということです。
子宮内膜と受精卵の日数が一致しない状態では着床がうまく進みません。体外受精で体外培養を行うと受精卵の発育スピードが、母体内にいる時よりも遅くなる場合があります。
受精卵にとっては本来母体内にいる方が成長にとって最もベストな環境であり、体外は受精卵にとっては非常に過酷な環境であるため、成長すること自体が非常に大変なのです。

また、高齢の方の受精卵は若い方の受精卵と比べると明らかに発育が遅いという場合がよくあります。これは受精卵の質の問題によります。採卵後、体外で育てた受精卵の発育が遅れた場合、この受精卵を仮に同一周期(新鮮胚移植)で子宮に戻した場合、子宮内膜の日数とのズレが生じる可能性があります。

つまり、受精卵凍結を行う意味は、体外培養によって生じた受精卵と子宮内膜の日数のズレを凍結を行うことで周期を変えて調整し、最適な子宮内膜の時期(=着床の窓が開いた状態)に最適な状態に発育した受精卵を持っていくということにあります。インプランテーションウィンドウの考え方に基づけば、受精卵発育が遅れる可能性の考えられる高齢者等では凍結胚移植が勧められるということになります。

2、自然妊娠の仕組みを真似る

妊娠とは本来、自然の排卵(自然の状態では1個の卵胞が育ち1個の卵子が排卵する)で出来た受精卵が、最適な子宮内環境下にあることで成立します。
体外受精周期では、

  1. 大量の排卵誘発剤を使用
  2. 多数の卵胞が発育
  3. エストロゲン、プロゲステロンが非生理的なレベルに上昇
  4. 子宮内環境が悪化

という経過となるため、子宮内環境が妊娠に適した本来の生理的な状態からかけ離れて非生理的な状態となり、受精卵にとっては最適とは言えない環境になってしまいます。
特に大量の排卵誘発剤を使用する高刺激周期(ロング法、アンタゴニスト法など)ではこの傾向がより強くなります。
逆に自然周期やエストロゲンの上昇を伴わないレトロゾール周期の場合はより自然の状態に近い子宮内環境が維持されているとも言えます。
クロミフェン周期ではケースバイケースですが、比較的発育卵胞数が多く、エストロゲン値が上昇する場合もあります。(ロング法やアンタゴニスト法ほど多数の卵胞が育つことはないのでエストロゲンの上昇も比較的抑えられることが多い)。

このような状況を考慮して、当院では

  1. 高刺激法(ロング法、アンタゴニスト法)・全胚凍結(全ての受精卵をいったん凍結)
  2. 低刺激法(自然周期、レトロゾール周期)・子宮内膜の状態など条件が許せば新鮮胚移植

というような選択をしています。

クロミフェン周期はケースバイケースですが、、多数の卵胞が育ちエストロゲン値が上昇するようなケースは全胚凍結としています。
また、クロミフェン周期の場合は大抵子宮内膜が薄くなるのでほとんどのケースで凍結を選択する場合が多いです。

高刺激法を全胚凍結とする理由はこれだけでなく、OHSS(卵巣過剰刺激症候群)の予防という目的もあります。インプランテーションウィンドウの考え方に基づいて受精卵の日数と子宮内膜の日数を一致させ、良質な受精卵を良好な子宮内環境下(本来の自然に近い状態)に戻すことが妊娠にとっては一番効果的と考えられます。

自然に近い状態の子宮内環境を再現する方法として、ホルモン補充周期があります。
排卵障害により自然排卵しない方、排卵はするが周期が不順でいつ排卵するか分からない方では凍結した受精卵を戻せない、またはいつ戻すか決められないということがあります。排卵日が決まらないと受精卵の日数と子宮内膜の日数を一致させられないためです。

ホルモン補充周期はエストロゲン、プロゲステロン値を厳密に測定して本来の自然排卵周期に近い子宮内環境を人工的に再現し、着床に最も適した子宮内環境を整え、受精卵の日数と子宮内膜の日数を一致させて戻すのに最も優れた方法と言えます。

以上のような理由から、当院での胚移植はホルモン補充周期下での凍結胚移植を第1選択としています。

経膣超音波下胚移植法

当院では経膣超音波下胚移植法を行っています。
経膣超音波下胚移植は経腹超音波下胚移植に比べて子宮の全体像を正確に把握することができ、胚移植用カテーテルが子宮内膜のどの位置に留置されたかを的確に判断することができます。 また、胚移植用のカテーテルも、子宮の屈曲の状態や初産婦、経産婦等、患者様の状態により数種類を使い分ける方法で行っています。

凍結胚および凍結精子の凍結更新手続きについて

凍結胚および凍結精子の凍結保存期間は原則1年とし、これを越える場合は1年ごとに更新手続きが必要となります。更新月を迎えられる患者様には、更新継続手続きの案内を郵送させて頂いております。更新をご希望の方は届きました案内に従ってお手続きの程よろしく御願いいたします。なお、下記に該当する場合は、凍結更新が出来ず破棄となりますためご理解の程よろしくお願いいたします。

凍結胚

  • 夫婦のどちらかが死亡した場合
  • 夫婦が離婚した場合
  • 母体が生殖年齢を越えた場合

凍結精子

  • 当該男性が死亡した場合

更新手続きが患者様より頂けない場合、また住所変更の連絡がなく、郵送不可能の場合も1年を経過したものに関しましては当院の判断により破棄とさせていただきます。ご理解の程よろしくお願いいたします。

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