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鉄足りてますか?(不妊治療における鉄欠乏解消の重要性について)

鉄欠乏と妊孕性

日頃の外来で鉄欠乏と不妊の関係について訴え続けているところですが、実はその根拠や裏付けとなる論文は意外に少ないと言うことに気づきました。もちろん実際の臨床の現場では論文に書かれていることが全てではなく、論文には書かれていないが、目の前の患者様の状態や臨床経過から得られる知見と言うものがよくあります。(実はそちらの方が重要だと思っています。権威ある医学論文が必ずしも全てにおいて正しいことを言っているとは限らないし、また論文は著者の意図によって歪められるということも往々にしてあります。論文に書かれている内容が果たして目の前の患者様に当てはまるのか?という疑いの目を持つことも必要だと思います。)当院でも実際に栄養療法や鉄欠乏を改善するとそれだけで妊娠に至る方がいますので、鉄欠乏と不妊症の関係については自身の中では疑う余地のない事実と考えているのですが、それでも何かしらの裏付けを求めて(医療の裏付けを論文に求めてしまうというのは医者の性というべきかもしれませんが)色々検索をした結果、以下のような論文にたどり着きました。

今からおよそ27年前(1991年)のLancetに掲載されたものです。

ferritin

内容としては、Telogen effuvium(日本語に訳すと休止期脱毛症)の女性に、脱毛症の治療として鉄とビタミンCの投与を行った結果、一部に妊娠者が出たという症例報告的な内容です(不妊とは関係ありませんが、鉄欠乏は薄毛の原因にもなります。不妊以前に女性の美容にとって貧血は大敵とも言えます)。脱毛症の患者では非脱毛症の方に比べて血清フェリチンが40以下と低値だったとしています。脱毛症の治療に1日35mgの鉄+200mgのビタミンCを投与した結果、うち7名の患者が脱毛症の治療期間中に妊娠、そして7名は全て投与開始から28週以内であったことなどが記載されています。これらの事実を元に筆者は妊娠の成立には正常な鉄の貯蔵(store)が必要であること、鉄の欠乏は妊娠初期段階の流産に繋がること(fetal rejection)、血清フェリチン40を一つの目安として鉄欠乏の方には鉄を補充した方が妊娠しやすくなることなどを仮説として述べています。もちろん今回の論文は大規模調査でもRCTでもなく113名の非常に少ない集団でのあくまでも症例報告的内容であり、論文至上主義者やエビデンス至上主義者からは見向きもされない可能性すらありますが、こういう気づきは臨床の現場では大変重要だと思います。

Iron intake(鉄摂取)とOvulatory Infertility(排卵障害性不妊)の関係

もう1編は2006年のObstetrics & Gynecologyに掲載の論文です。Ob & GyneはACOG(American college of Ob and Gyne=米国産婦人科学会)の公式ジャーナルです。

不妊

こちらはNHS(Nurses` Health Study=米国で実施されている看護師を対象とした大規模な疫学調査)参加者を対象とした研究(つまり調査の対象者は看護師ということになります。余談ですが医療従事者に不妊症の方は多いです。不規則な勤務、不規則な食事、その他様々な要因が考えられます)で、平均の総鉄摂取量(iron intake)と排卵障害のリスクについて調べています。また、摂取する鉄の種類(ヘム鉄 or 非ヘム鉄)ごとの摂取量と排卵障害の関係についても調べています。結論として、総鉄摂取量に比例して(総鉄摂取量の平均は11mg/day〜77mg/day)排卵障害の相対リスクが低下するとしています。一方摂取する鉄の種類について(ヘム鉄 or 非ヘム鉄)、非ヘム鉄では36.3mg/day〜76mg/dayの範囲において容量依存性に排卵障害の相対リスクに低下が見られたのに対し、ヘム鉄では容量依存性のリスク低下は見られなかったとしています。日本ではヘム鉄信奉者(ヘムヘム教)が多いのですが、ヘム鉄サプリは海外ではあまり一般的ではありません。(ヘム鉄サプリは日本だけのローカルサプリと言われています。いわゆるガラパゴスです)ヘム鉄サプリは高価な割にそもそもの鉄の含有量が少ないものが多く、ヘム鉄でそれなりの鉄の総量を確保しようとしたら非常に大量のサプリメントが必要になります(ヘムヘム教の方はヘム鉄は非ヘム鉄より吸収効率が良いという点を根拠にヘム鉄の優位性を強調されますが、これは平時での話で貧血時は非ヘム鉄のトランスポーターの数が増えることにより、非ヘム鉄の吸収効率がヘム鉄を上回るとも言われています。体はその時の状態に応じて吸収する鉄の種類を変えています。どっちが良いか?ではなく、どっちも必要なのです。ヘム鉄 VS 非ヘム鉄・・・のようなくだらない議論はやめにした方が良いと思います)。今回の論文では排卵障害改善効果はヘム鉄より非ヘム鉄に軍配が上がっています。(少なくとも排卵障害の改善を目的とするなら、鉄総量の少ない割に高価なヘム鉄サプリをわざわざ買い求める必要はないと言えます。もちろん、ヘム鉄、非ヘム鉄はそれぞれに役割があるのでどちらも大事ですが、サプリメントとして敢えて取るならわざわざ高いヘム鉄でなくても良いということになります。一方、ヘム鉄は普段の食事からしっかり確保できるようにしたいです。)

目的は不足する鉄を補うこと(フェリチンを増やすことではない)

栄養状態の改善(鉄欠乏の解消も含めた)が不妊の解消に繋がるという考え方はここ最近の新しいトピックスです。新しい考え方の施設では妊娠に必要な栄養状態の改善について積極的に取り組んでいるところもあります。しかしこのような考え方の施設はまだ少数派ではないでしょうか?当院では特に栄養素の中でも鉄欠乏と不妊の関係を重視しています。鉄欠乏と不妊の関係について、海外に比べて日本での注目度はまだ低いように思いますが、実際に目の前の患者様が妊娠されているという事実をみると無関係ではないと確信しています。ところで、患者様の中にはフェリチンを上げることが妊娠に繋がると誤解をされている方がおられますが、実は若干違います。鉄欠乏を解消することとフェリチンを上げることはイコールではありません。フェリチンは体内の炎症マーカーでもあるためフェリチンが高い=鉄が十分あるではありません。鉄欠乏なのにフェリチンが高いという方がおり、こういう方は体内に何かの炎症(動脈硬化、糖尿病、がんなど。これら慢性疾患は体内の炎症と無関係ではありません)を持っている可能性がありますので別の意味で要注意です。不妊解消のために大事なことはフェリチンを上げることではなく、不足する鉄を補うことです。その点どうぞお間違いのないように・・・

 

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