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木を見て森をみず・・・プロラクチンについての四方山話

プロラクチンに関する最近の話題等
昔から語り継がれてきた不妊症の原因の一つに所謂"高プロラクチン血症 Hyperprolactinemia (HPRL)”と言うものがあります。不妊治療をしたことのある方であれば、一度は聞いたことのある疾患名ではないかと思います。
プロラクチンは、下垂体前葉ホルモンの一つです。主な作用は乳腺の分化、乳汁の合成、乳汁分泌と言うように、哺乳動物の根幹に関わるホルモンとされます。(教科書的には母乳絡みでよく取り扱われます)。一方、あまり知られていないその他の作用として、プロゲステロン分泌作用(妊娠維持作用)、膵β細胞からのインスリン分泌促進作用(妊娠糖尿病の発症予防に関与)、メスの哺乳動物における巣作り、母性行動促進作用、母性行動と同時に自身の子供以外に対する敵対行動の誘発(これは時として夫に対して向けられる)、血管新生、浸透圧調整、免疫応答などが最近分かって来ました。また、プロラクチンはこれまで下垂体前葉ホルモンとして扱われて来ましたが、最近の研究では着床後の子宮内膜(脱落膜)でも作られていることが分かっており、脱落膜性プロラクチンと言われています。妊娠成立後の主なプロラクチンの局在はこの脱落膜性プロラクチンと言われており、血管新生因子、増殖因子、造血因子としての作用が受精卵の分化、発育、胎児形成に繋がっていくと言うことが分かっています。
では、高プロラクチン(HPRL)はなぜ、不妊になると言われて来たのでしょうか?プロラクチンの作用の一つに排卵抑制があります。上述のプロラクチンの主作用(催乳、脱落膜化、母性行動促進)を考えると、このホルモンは哺乳動物(ヒトを含む)の妊娠維持、つまり母体が子供を産み育てる方向に進ませる作用のあることが分かります。排卵抑制はすなわち、次子より現子(現在の妊娠)を優先するための合目的作用です。
高プロラクチンが排卵抑制に関与するメカニズムは不明な部分もありますが、視床下部におけるドーパミンのturn over亢進作用が関与すると言う説があります。ドーパミンは同じく視床下部からのGnRh分泌に関係します。GnRHは下垂体に対して排卵作用のあるLH分泌を指令します。つまり、PRL↑、ドーパミン↓、GnRH↓、LH↓、排卵抑制と繋がります。
HPRLに対するドーパミンアゴニスト
テルロン、パーロデル、カバサールいわゆる高プロラクチンに対する三種の神器です。これらはドーパミンアゴニストと呼ばれる薬です。アゴニストとは作動薬と言う意味で、ドーパミン受容体に対してドーパミンと類似の作用を起こします。ドーパミンはプロラクチン分泌に対して抑制的に働くとされ、生体内でドーパミンはプロラクチン分泌に対するストッパーとなります。何らかの理由でドーパミンによる抑制が効かなくなると高プロラクチン状態になります。ドーパミンは水道の蛇口、プロラクチンは水道の水に例えられます。
プロラクチンが高い=不妊の原因か??
不妊に悩む患者様からよく頂く要望に不妊の原因を知りたいと言うのがあります。残念ながら数ある不妊症の原因の中でその原因を正確に特定出来るものは殆どありません。時々高プロラクチンが不妊の原因と信じている方がおられますが、プロラクチンが高い事で排卵抑制が起こっていれば不妊の原因になり得ますが、多少プロラクチンが基準値を超えていても、排卵抑制がない(=月経不順がない)方は、それ自体が不妊の原因とはなり得ません。プロラクチン値と排卵抑制については、具体的に数値がいくつ以上なら排卵抑制がかかるか?と言う明確な基準はありません。一般にプロラクチンの基準値=30ng/ml以下というのが採用されていますが、これを超えたからといって即排卵抑制がかかるものではありません。高プロラクチン=不妊の原因と考える人は我々のような医療者の中にも結構多いですが、その理由の一つは、原因を知りたいと求める患者様に対して理由を説明しやすいというのが考えられます。あなたが妊娠しない原因はプロラクチンが高いからですと言えば理由を知りたいと思う患者様は納得します。じゃあどうしたら良いですか?プロラクチンを下げる薬を飲みましょうとなります。もちろん薬は保険で出るので費用はそんなにかかりません、じゃあ飲んでみたいです・・・となります。
プロラクチンの基準値が決められていますが、これは必ずしも正常値ではありません。多くの一般人のデータを元に検査会社(ないしはそれに相当する機関)が勝手に決めた値であってそもそも正常値などと言うものは存在しません。あるとしたら、あるプロラクチンの値によってそれが排卵障害を起こしていたとしたら、その時の値はその人にとっての異常値というだけの話です。そこで初めてじゃあ薬を飲んで少し値を下げてみましょう・・となるべきかと思います。検査会社が勝手に決めた基準値に踊らされて多少でもその値を超えたのを見つけたら鬼の首を取ったように不妊の原因はこれだと決め付けて、以後カバサール漬けになる方を幾度と無く見てきましたが、この状態は物事の本質(つまり不妊の原因たる排卵障害があるか否か)が見えていないように思えます。木を見て森を見ず状態と言えます。
最後に・・カバサール漬けがやばい理由

プロラクチンが多少基準値を超えた=高プロラクチン血症=それがあなたの不妊の原因ですとされてカバサール漬けとなっている方がおられます。で、これらの方で心臓の検査を定期的に指示されている方をあまり見たことがありません。しかし、添付文書にこのような記載があります。

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滅多に起こることではないのかもしれませんが、心の片隅に置いておいていただけたらと思います。
Lacto(ラクト)=ラテン語由来で乳を意味します。
Prolactin(プロラクチン)は我々哺乳動物が哺乳動物たる由縁となる重要なホルモンです。闇雲に下げて良いはずがありません。
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