甲状腺機能低下症と不妊症、不育症の関係|クリニックブログ

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2017.01.22

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甲状腺機能低下症と不妊症、不育症の関係

不妊症患者のおよそ10数%は甲状腺機能異常

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不妊クリニックに通う妊娠を希望する患者(不妊症患者)のおよそ10数%が甲状腺機能異常を有すると言われており、それ自体が不妊の原因であるとされています。また、習慣性流産(流産を連続して3回以上繰り返す状態)の約10%ぐらいに、軽度の甲状腺ホルモン不足(潜在性甲状腺機能低下症)が関係しているとも言われています。甲状腺は図のような場所にある非常に小さな臓器ですが、人が生きていく上で欠かせない重要な働きを持ちます。今回は不妊症、不育症との関係についての記載です。

 

潜在性甲状腺機能低下症と習慣性流産

甲状腺ホルモン(FT3,FT4)は正常だが、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が高値の状態を「潜在性甲状腺機能低下症」と言います。潜在性甲状腺機能低下症は女性に多い病気です。

自然妊娠における流産率はおよそ10%〜20%程度とされています。これはほとんどが染色体異常が原因であることが多く、ある種の自然淘汰と考えることができます。しかし、潜在性甲状腺機能低下症の状態で、TSH≧2.5の状態では流産率は30%以上になるという報告があります。つまり、潜在性甲状腺機能低下の状態では自然淘汰で起こり得る流産率をはるかに上回る流産が起こり得るということです。しかし、潜在性甲状腺機能低下の患者に甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS)補充療法を行うことで無事出産できた症例は多数報告されています。

もちろん、潜在性甲状腺機能低下症でこのぐらいの影響が出ますので、顕性甲状腺機能低下症(FT4低値を示し甲状腺機能低下症の症状を呈するもの)ではそれ以上の影響が考えられることは至極当然と言えます。

潜在性甲状腺機能低下症と不妊症、習慣性流産との関係

2000px-Thyroid_system.svg_下垂体ホルモンの一種であるプロラクチン(PRL)は、同じく下垂体ホルモンであるTSH(甲状腺刺激ホルモン)と連動します。潜在性甲状腺機能低下症、橋本病などの甲状腺自体に問題がある甲状腺機能低下症(原発性甲状腺機能低下症)では、

甲状腺ホルモン不足→下垂体-甲状腺フィ-ドバック機構によるTRH(TSH放出ホルモン)上昇→TSHとプロラクチン上昇

がおこるため、結果としてプロラクチンが上昇(高プロラクチン血症)を引き起こし、プロラクチン自体の排卵抑制作用、着床阻害作用によって不妊症、流産の原因となります。

TSH(甲状腺刺激ホルモン)が、子宮内膜NK(ナチュラルキラー)細胞を活性化するとの論文もあります。NK(ナチュラルキラー)細胞は血液中の癌細胞やウイルス感染細胞を排除するリンパ球で、子宮内膜NK細胞として子宮内膜にも存在しますが、NK(ナチュラルキラー)細胞活性が強過ぎると、胎児を排除する(結果として流産)方向に働きます。

妊娠希望女性ではTSH<2.5で行きましょう

妊娠可能かつ甲状腺の病気がない健康女性では、TSHは0.4~3.0μU/mlとされています。一般的な正常上限の5.0でなく3.0をカットオフ値とし、甲状腺ホルモン補充療法を行いTSH<3にすると、80%以上が妊娠したとする報告があります。米国甲状腺学会のガイドラインでは、着床直前から妊娠前期ではTSH<2.5になるよう厳格にコントロールすることが推奨されています。

体外受精周期と甲状腺機能低下症の関係

体外受精(IVF)をおこなう際、採卵前の卵巣刺激によって急激な甲状腺機能低下(TSH上昇・ FT4低下)を起こすとされます。卵巣刺激で多数の卵胞が発育した結果、急激な血中エストロゲン(女性ホルモン)増加がおこり、血中の甲状腺ホルモンと結合するTBG(甲状腺ホルモン結合タンパク)が増加、体内で自由にホルモン作用をおこすFT4が急激に減少し甲状腺機能低下が一気に進むことが原因と考えられています。もともと甲状腺に異常がない方でも、2.5<TSHになることがありますが、甲状腺ホルモンを産生する予備能力のない橋本病や潜在性甲状腺機能低下症の方が体外受精を行った場合、甲状腺に異常がない健常女性に比べ、甲状腺機能低下の程度がはるかに大きくなることが予想されます。

当院の基本的なスタンス

20141114hamadalec初診で来院された患者様にまずTSHの測定を行います。2.5<TSHの患者様には必ず甲状腺専門医へ行ってもらいます。不妊治療に来たのにどうして甲状腺の治療をしなくてはならないのか?と聞かれたことがありますが、甲状腺の治療=不妊治療ですと説明しご納得をいただいたことがあります。最近は甲状腺専門医の先生方の多くが不妊治療への理解を示していただいております。(こちらのような発表をされておられる先生もいらっしゃいます)。特に体外受精を予定されておられる患者様では、採卵周期、移植周期の各時点で必ずTSHの確認を行うようにしています。また、TSH<2.5に安定するまでは採卵移植周期に入らずしばらく甲状腺の治療に専念していただくことで、不利な条件下での採卵移植周期を回避するようにしています。TSH<2.5になってから採卵移植周期に入った方が、結果的には急がば回れで少ない採卵、移植回数で妊娠に結びつきますし、妊娠後の流産という残念な結果も減らすことができます。

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