原点回帰|クリニックブログ
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2017.03.27
体外受精
治療
原点回帰
私が自然周期をやめた理由
現在、世間一般の体外受精の方法には大きく3つ、自然周期法とよばれる排卵誘発剤の類を全く使わないで、自分の体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)やLH(黄体化ホルモン)によって自然に育ってくる1周期に1個の卵子を回収する方法、クロミフェン周期、フェマーラ周期に代表される低刺激法(またはminimum stimulation=ミニマムスティミュレーション)と呼ばれる、内服剤を中心とした弱い刺激に、必要に応じて少量のFSH製剤やHMG製剤を添加して、数個程度の卵子回収を目指す方法、ロング法やアンタゴニスト法に代表される高刺激法(hyper stimulation)と呼ばれる、FSH製剤、HMG製剤を大量に使用し、1回の採卵でたくさんの卵子回収を目指す方法 があります。体外受精を実施している不妊治療専門施設では、これら3つの刺激法を基本とし、これにそのクリニック独自のアレンジを加えたりなどしながら、患者様ごとに最適な刺激法を駆使しながら治療を行っているところが多いのではないかと思います。施設によっては ”当院は自然周期体外受精専門施設です”、など、特定の刺激法を売りにしているところもあるようです。
ところで、かつては世界も日本も、薬をたくさん使った刺激による体外受精が主流でした(古典的体外受精における卵巣刺激法は高刺激法です)。私が初めて体外受精を経験した施設も高刺激でした(ロング法、ショート法の2法のみを実施しておりました)。そのような中で、移籍した次の施設で初めて自然周期法に出会いました。当時高刺激法しか知らなかった私にとって、排卵誘発剤を全く使わないで体外受精ができるというその方法は大変画期的であり魅せられました。
その後2014年4月に現在の佐久平エンゼルクリニックを開院するに至りましたが、それ以前の勤務先で習得した自然周期法とクロミフェン、フェマーラ中心の低刺激法を施設の基本方針に据え、患者様の体に負担をかけずに自然に近い妊娠を目指すやり方をコンセプトに以後およそ2年ほどを自然周期、低刺激法を中心とした方法で日々の診療を行って参りました。この間、最初の2014年にはおよそ310件の採卵を、翌2015年には750件の採卵を行いました。
2年間でおよそ1060件の採卵を行いましたが、結果、自然周期法、低刺激法の治療の良い面だけではなく、限界も知ることになりました。自然周期法、低刺激法が有効である方と、そうではない患者様もいらっしゃるということに気づきます(これはもちろんどの治療法でもありえることです)。自然周期法、低刺激法の枠を出ることで、あと少しで天使に出会うことが出来るかもしれない患者様がいたのではないかという思いに至ります。私のこの思いは、これまでの自然周期法や低刺激法を決して否定するものではありません。当院で行った自然周期法や低刺激法ですでに天使と出会っておられる患者様もたくさんおられます。
自然周期法、低刺激法の特徴は、何と言っても使用する排卵誘発剤の投与量が少ない(または全く使用しない)ため、患者様の体にかかる負担は少なく、経済的にもやさしく、よく ”体にも財布にもやさしい” などと形容されます。しかし、本当にそうでしょうか??
自然周期法、低刺激法では、1回の採卵で回収できる卵子数が当然少なくなります。(自然周期は原則1採卵1卵子です)。採卵あたりの卵子回収率は当然高刺激法よりも低く(空胞で卵子が得られないこともよくあります)、また少ない卵子故に得られた卵子が最終的に良好胚を形成して赤ちゃんになれる確率は低くなると考えられます。(高刺激法で得られた卵子と比べて、良好胚率、移植あたり妊娠率は変わらないという意見もありますが、そもそも母数となる卵子数が少ないので、移植のチャンスが少なくなる、移植自体の回数が減る、つまり1回の採卵あたりの妊娠のチャンスが少なくなるということは言えるかと思います)。自然周期法や低刺激法では、妊娠に至るまでの採卵回数が自ずと多くなります。採卵の回数を繰り返すことで移植のチャンスを増やし、最終的な妊娠の可能性を高めるのが自然周期法や低刺激法ということになります。患者様には ”自然周期では毎月採卵が可能です” などと説明することもありますが、果たして毎月毎月採卵を繰り返すことが ”体にも財布にもやさしい治療” と言えるでしょうか?(もちろん、何回も繰り返す前に妊娠する可能性がないと言っているわけではありません)
高刺激法は自然周期法、低刺激法とは全く逆です。大量の排卵誘発剤を使って1回の採卵で多数の卵子を回収します。卵子回収率は上がります。良好胚率、移植あたり妊娠率は自然周期や低刺激と変わらないかもしれませんが、そもそもたくさんの卵子があれば当然移植の回数は増えます。つまり1回の採卵あたりで見ると妊娠のチャンスが増えるということになります。欠点は何と言っても大量の排卵誘発剤とOHSSなど身体的な負担です。しかし1回の採卵で良好胚がしっかり取れればいいわけです。
当院では2016年以降、刺激法をこれまでの自然周期法、低刺激法中心のやり方から、高刺激法中心の方法に変えました。(特に年齢が若くてAMHが高く、しっかり刺激を行えばそれなりに卵子がたくさん確保でき、年齢が若いが故に良好胚が確保できる可能性の高いと考えられる患者様には特に高刺激法を勧めています。逆にAMHが極端に低く、高刺激法でも回収卵子数増化が望めないであろう方ではこれまで通りの低刺激法を第1選択とするケースもあります)。体外受精の治療成績はこの3年間で以下のように推移して参りました。2014年、2015年の採卵数あたりの移植件数に比べて、2016年は明らかに採卵件数あたりの移植件数が増加しています。これは、1回の採卵あたりで移植に供する良好胚が比較的しっかり確保できていることを意味しています。(2015年と2016年ではトータルの移植件数は2015年が多いですが、採卵件数あたりで見ると、2016年の方が移植件数は断然多いのがわかります)。移植あたり妊娠率の増加は培養技術や技術革新(特にタイムラプスシステムの導入)によるところが大きいと考えています。当院は2016年2月タイムラプスシステム(Embryo Scope)を導入しましたが、高刺激法はこのタイムラプスシステムとの相性も抜群です。複数の胚が確保できればタイムラプスシステムで胚をふるいにかけることによって、自ずと良好胚を選択できる可能性が高まります。(胚移植あたり妊娠率が上がり、流産率が下がります)
以上が、ずばり私が自然周期をやめた理由です。
しかし、自然周期法をやっていたからこそ得られるメリットもあります。自然周期法では、自身のホルモンによって卵胞発育、排卵時期などが変わるため、常にホルモンの動きに注視する必要があります。体外受精を進める上でホルモンの動きが読めるということはその他のあらゆる刺激法を行う上でも強みとなります。
以下、関連ブログも是非ご参照ください。(このブログを記載した時点と多少施設の考え方が変わっている部分があります点をご了承願います)↓↓
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